問題児登場

「はーっはっはっは!私はまた!やってのけた!!」

デスマーチを乗り越え一息ついていた繁栄の箱庭に、私たちの静寂を破る高らかな声

その声の主が現れたとともに、私以外の3人の顔が怒りの表情になる


「ザクルスキー神よ!今度こそ、私の成功例を認めてくれ!」


「なによ!大量に転生者を出しておいて…私たちの役目を知った上でやってるわけ?!」

ラビィが怒りを言葉に乗せ相手にぶつける

その一言で私は「この人がザクルスキーの元仲間」だと気づく


「ラァビー…そんなにカッカしないでおくれ…私がいた世界は、素晴らしい繁栄を遂げているではないか?」

やや小馬鹿にする様に、男はぐるりと世界の様子を仰ぎ見る


「おや?見慣れない顔だね…もしかして、私が先ほどいた世界での弱者だったかな?」

と私の存在に気づいて視線を向けると、ドラグーが遮るように手を私の前に出す


「もし君があの世界での被害者だったら申し訳ないねぇ…でも、必要だったんだ。何かしら大きな利益を得るためには、多少なりとも、犠牲は必要だろ?」

悪気もなく男は淡々と語る

私がドラグーの顔を見ると奥歯をギリギリと食いしばって怒りを堪えていた


「多少の犠牲と言って、お前は目に余る事をやりすぎだ」

ザクルスキーがようやく口を開く

「いやいや…少数派はどうあがいても少数だよ。そこを優先しても繁栄なんてなぁんも得られりゃしないさ」


「いい加減にしろ!!お前が二度とそういう行為ができないよう、弱い存在として転生させてやる!」

ザクルスキーが怒りに任せたように転生させようとしたそのとき


「もう、いいんじゃないか?ザクルスキー…」


と、声とともに私が見覚えのある黒いモヤが繁栄の箱庭に出現する

ハディーがモヤの中からスッと現れ、その場の空気を沈めた


「ハディー神……これは私の問題です。あなたの手を煩わせるなんて…」

この展開を予想してなかったのは元仲間も一緒で

「ようやく上司の神が活躍を認めてくださったのですね!私はザクルスキーの管理する世界を繁栄させ、かつ逆らうものは厳しい罰を与えてきました!」


ここで、私の中でデスマーチが迫害と虐殺も含んでいるという嫌な予感が確信に変わった

「そうだね、その貢献を認めて、私の箱庭に招待しよう」


ハディーの発言に、またもや私と元仲間の男以外の顔がギョッと変わる

私がどう言うことかわからないままハディーは続ける


「スキル、下剋上…弱いものに転生すれば必ず権力者になれる。他にも、カリスマ・大衆誘導。これで迫害や差別は正当なものと信じ込ませていたんだね。ザクルスキーに隠してこんなスキルを持っていたとは…」

ハディーが言うと、ザクルスキーが「なんだ、その祝福は……」と驚いた顔をする。私もこの箱庭で知ったのだが、スキルを持っている人は、繁栄させるためにと祝福として次の世界へスキルを継ぐことをよしとしていた


「な、なんのことでしょう…どうしてもそれは、弱きものを繁栄させるために必要なものでして…」


「弱いものは必ずしも淘汰されるべくしてなるんじゃない。かと言って救われないのは神の力不足だが、これは神になれるようなスキルだねぇ…」

ハディーが男の言い訳を跳ね除ける


「これでスッキリしたよ。弱い者や色々ペナルティーを与えて、何度も転生させてるはずなのに、必ず君はのしあがってくる。前の繁栄の神の言葉を履き違えて、手段を選ばず繁栄の道を信じていたのかい?」


「そうです!私はザクルスキーとこの場所に呼ばれ、ザクルスキーは神に、私は繁栄の使者として、ありとあらゆる世界へ転生したのです!」

ハディーに聞かれ、元仲間の男は声高らかに主張した


繁栄の使者…そう言ってやってきてることは、繁栄のための迫害や虐殺…

元いた世界で言うなら、ダイナマイトや麻酔として役に立つものを、戦争の道具として一部の人が利用する

その歴史をこの男は全て1人でやってのけたということ…?


「ザクルスキーに認めてもらえないなら、私が認めるよ」

ハディーが言うと男の体は黒い霧に包まれていく


「あぁ、ありがた…き……し、あ……わ……」

なんだろう?あんなにハキハキしてたのに様子がおかしい

「あっ…!あぁぁぁぁぁぁ…………」

男の発狂の声が響く前に、霧は繁栄の箱庭から姿を消していた


「ハディー…さっきのは?」

と私は疑問を素直に聞く


「私の箱庭。もう二度とこの世界へ転生させないように隔離したのさ」


あれ?魂は選ばれてその箱庭に来てるって話じゃ……と言う疑問を見透かしたように

「ただ、今までもらった記憶や、スキルの情報は創造神の糧になるけどね」

とハディーは付け足す


創造神…ハディーよりも上、というよりこの世界全てを創り出し、見ている神のこと…ハディーの箱庭には創造神の箱庭と直結してたりするんだろうか…?


「ザクルスキー…これで君の問題は解決したんじゃないかい?」

とハディーが言葉をかける


「そう…ですね…」

と元気がない状態で受け答えする

ラビィとドラクーに目を向けながら「お前たちには迷惑をかけたな」とザクルスキーがいうと


「何言ってんの」


「そう言っても、私たちは転生しませんよ」


とラビーとドラグーが言う

私はある意味、共通の敵がいなくなったけどこの3人には固い絆があるんだなと少し羨ましいくおもえた


「さて、研修といっても繁栄と再起ではやり方が違うから、君はここでお暇した方がいいんじゃないか?」

とハディーは私を見る。

と、言うことは研修は終わりってこと?


「そうね、リヴェルーには自分のあるんだもの、新人とはいえ重い事をさせたわ」

と、ラビーがニコッとした顔で言う


最初にあった時とは違う、憑き物が落ちたような顔だ

「違う視点で考えることができました。ありがとうございます」

私はザクルスキー、ラビーとドラグー…そしてザクルスキーを見て別れを告げハディーと同時に自分の箱庭へと戻っていった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る