その言い逃れをあとがきと名付けよ

 今回の怪獣小説は呼称なのかあ、と思い考えた結果、最初にタイトルが思い浮かびました。その絶望を私と名付けろ。私より我だなということで今のタイトルになりました。


 具体的な話はさっぱり思いつかなかったのですが、なんか絶望の感情に名前を付けて力にするみたいな設定が浮かんだので、それを怪獣にすることにしました。

 絶望の感情が怪獣になる。感情を食べて大きくなる。ということで名前を思いついたのが言獣でした。


 それが味方なら敵は違う名前の方がいいなあということで、なにか怪獣に近い言葉を作り出せないかとしばらく考えて出来たのが怪謬かいびゅうでした。

 びゅうとは誤りを意味する言葉です。誤謬とか無謬性とか。なんか良さそうな感じだったので敵は怪謬という事になりました。


 意味エネルギー云々は、単に感情を食べてどうのこうのだと単純すぎると思ったので設定を考えました。しかし結果的にはあんまり物語に関連してこないので単純に感情でも良かったのかなという気もします。


 デカルト級飛行思索戦艦はなんか格好いいので出しました。怪獣と戦うんだからでかい戦艦が必要だろうと思い、ついでに空を飛んでもらいました。実際の船も何とか級というのがあるらしいのでデカルト級というのをつけました。具体的に何をさすのかは決めていないのですが、語感が好きなので気に入っています。


 大岩戸は鬼滅の刃の煉獄さんのイメージです。帝山はまどか☆マギカのマミさんがイメージです。焚草艦長は特に考えていませんが、なんか髭を生やしているイメージです。


 構想の中ではなんかもっと感情の高ぶりを書いて劇的にデイドリオンが登場するイメージだったのですが、結構地味になってしまいました。

 今回の作品で一番悩んだのが、絶望の感情を基にして戦うという事でした。絶望を乗り越えて戦うのではないため、主人公である秋生は絶望したままでいないといけません。

 なので絶望している状況を認め、諦める、開き直るという形で書きました。読み返してみると本当にこれでいいのかという疑念も湧いてきますが、今更変えられないのでこれで突っ走りました。


 怪獣の戦闘に関して、とりあえず世界観を認識してもらうために一話で出しました。それとクライマックス、デイドリオンの戦いを書く予定でした。

 デイドリオンの戦いをもう一話分書こうかとも思ったのですが、でかいトカゲと十字架の戦いはいずれにせよ地味だったので諦めました。

 なお帝山が怪謬になった怪獣は愛犬のチャッピーを悼む心から生じています。チャッピーの墓標。デイドリオンに壊されましたが。


 人は幸福になるために生まれてきたわけではない。

 これは最近思いついたというか、色々考えた結果辿り着いた言葉です。現実でも創作の中でも不幸な人はいます。些細なことから大きな事まで不幸というものが存在し、人間はそれに振り回され苛まれます。それは一体何故なのだろうかとしばらく考えていたのですが、結果的に、特に幸福になるために生まれたわけではないから、という結論に落ち着きました。

 それは私にとっては救いであり、絶望でもある答えでした。

 私は人並みには幸福ですが、悩みがないわけではありません。現在の職業や社会的な身分に関すること、家族の事、ペットの事、カクヨムのPVの推移なんかにも一喜一憂しています。私は満たされてはいませんが、それが満たされることはないであろうことも分かっています。きっと何者にもなれないままに死に、何も残すことはできない。それはたまらなく恐ろしい事でしたが、そう言うものなのだろうと最近は納得できるようになりました。

 その諦観は救いであり、緩やかな絶望です。しかしこれと共に生きていくしかありません。

 というようなことを考えた結果が主人公、秋生の絶望に対する観念に投影されました。

 そんな絶望に満ちた人生を生きることに意味はあるのか? という問いに対して、この宇宙が生まれる前から秋生の絶望という意味が存在し、それはその存在するという事象によって価値が担保されている、だからその意味にも価値はある……みたいなちょっと歪んだ考えです。言葉での説明が難しいのですが、そんな感じです。


 作中のウェルの行動原理は食欲です。秋生が何かに巻き込まれたり考え込んだりするたびにリアクションしますが、意味エネルギーの生産に関わらない、食べられない場合は興味を失います。十字架の怪謬に襲い掛かったのはその意味を食べたかったからです。帝山を救ったのは、一応は秋生の意思を尊重した結果です。

 言獣は意味エネルギーを取り込み代謝します。地球上の生命はその代謝から逃れる事が出来ません。帝山の予想のようにやがて全人類が言獣により意味を奪われ死滅していきます。それは遠い未来の話のような気もしますが、気が向いたら怪獣小説大賞とは別に続編を書きたいと思います。


 序で数年前に言獣が確認されたとなっていますが、秋生の生きている時代は言獣が見つかってから二十年後の世界です。序の言獣の呼び声が書かれた時代から時が経っています。

 その為言獣からの問いかけも「何者か」から「――」に変わっています。

 統一しようかとも思ったのですが、最初に序を書いた時から私自身の考えにも変化が生じていたので、第十二話での問いかけは「――」となっています。

 何者であるのか、という問いではなく、それを包摂したもっと別の問い。私たちがまだ認識できない意味をもった問いかけ。そう言う感じです。

 非常に細かく私以外には理解できない感覚だと思いますが、そう言う理由で「何者か」から「――」に変わっています。


 今回の怪獣小説は五万文字までだったので助かりました。当初は三万文字くらいだろうと思ってたら案の定増えて本編は4万5千文字くらいになりました。四万だったら一話分削らないといけませんでした。

 全体としてはもっと派手な、怪獣大暴れみたいなのをイメージしていたのですが、秋生がずっとごにょごにょしている感じになってしまいました。でもこれが私の魂の形なので受け入れることにしました。


 第三回怪獣小説大賞があればまたそこでお会いするかも知れません。ではまた、いつの日か。

 とっぴんぱらりのぷう。

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その絶望を我と名付けよ 登美川ステファニイ @ulbak

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