第24話 間違っても似合えばそれで良し

 久しぶりに予定の無い週末をのんびりテレビを観ながら過ごしていると、携帯電話が鳴った。仕事の電話じゃないことを願いながら手に取って見ると、娘の名前が表示されている。

「もし もし」

「あ~ お父さん!」

「めずらしいなぁ 何したのや?」

横浜に住んている娘だが、滅多に電話などくれた事がないので何事かと聞き返した。

「最近『常務の独り言』が更新されないで 体調悪いのかと思って...」

「おぉぉ 気にしてけっだんだがした」

「だって 半年も更新しないから 気になるわよ」

「ハハハ いろいろ忙しくてよ それに面白い話が出てこねんだずぅ」

新型コロナ感染症が落ち着き、分類も5類相当に変更されたあたりから、来客や出張が増え忙しくなったのは事実だが、ネタ切れ状態なのも事実である。

「な~んだ ネタ提供しようか? 有料で えへへ」

「おもしゃい話 あるんだがや?」

横浜で衣料関係の会社に勤務する娘は、忙しい時には現場の「ユニ〇ロ」に手伝いに行くと想定外の出来事が起きるのだそうである。

「あるある、この前ユニ〇ロでね、試着室から出てきたおばあちゃんが、店員に“これ、私のじゃない!”って怒ってるの」

「んだげど、それ着て出でぎだんだべ?」

「そう!でね、タグ見たら他のお客さんが試着したやつだったの!どうやら間違えて着ちゃったみたいで」

「あちゃー、それはびっくりだなぁ」

「しかもね、おばあちゃん、“でもこっちのほうが似合うわね”って言ってそのままレジに持ってったの!」

思わず吹き出してしまった。

「ははは!それは新しい接客スタイルだな、"間違えても気に入ればOK!"ってか」

「だからお父さん、今度ブログ書くときは“間違っても似合えばそれで良し”ってタイトルにしなよ。なんか深いでしょ?」

「確かに…世の中、予定通りにんがねくても、似合えばそれが正解かもしんねな」


電話を切ったあと、私は久々にパソコンを開いた。

タイトルを打ち込む。

『間違っても似合えばそれで良し』


そして、久ぶりに「常務の独り言」が更新されたのだった――。

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常務の独り言 @bucyo2021

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