2-3

 集団療法ミーティングは自己紹介から始まった。


「ボクはギャンブル依存のマルゴ」

 まず最初に、車椅子の女が言った。

「親の金で大損して入院させられたんだ」


 よろしく、という言葉がさっとは言えず、俺はもごもごしながら、小さく頭を下げた。


「それでこっちが……」


 マルゴは本を読んでいる男に顔を向ける。


 彼女に促され、男は本を片手で持ったまま、もう片手で首から下げたカードをつまみ前に突き出した。


 そこにはなにやら文字が書かれていたが、俺にはそれがわからない。


「ごめん俺、文字読めなくて……」


「あ、そうなんだ。こっちこそごめん」


 そう言って、マルゴは続ける。


「この人は放火癖パイロマニアのパイロンくん。住んでる村を焼いてここに来たんだ。口を開けば火炎魔法を唱えちゃうから、本当の名前は誰も知らない」


「え?」


 予想外な話に、俺はパイロンの顔を今一度見つめた。彼は本を見たまままぶたをぱちくりさせて、マルゴが代わりに言葉を継いだ。


「寝るとき以外ずうっと本を読んでいるのも、注意がそれて魔法を詠唱しないようにするため。文字を追うことがパイロンくんの代替行動ってわけなんだ」


「代替行動って?」


「代替とは、別のものに置き換えること。お酒を飲みたくなったら、かわりに飴をなめるとか掃除するとか、そういうことだね。火をつけたい気持ちを本を読むことで散らせれば、だれも傷つかないでしょう?」


「はぁ、なるほど。ま、……よろしく」


 俺はパイロンに頭を下げた。


 するとパイロンも本に目を落としたまま、小さく頭を下げた。口を開けば火炎魔法、戦場では出会いたくないタイプだな、そう思った。


 次いで、マルゴの視線が隣に移動する。


「それで、そっちの犬が窃盗癖クレプトマニアのクレープ。クレープみたいな色をしてるからクレープだね。その子はなんでも盗むから気をつけて」


「よろしく……」


 と、俺が言い終わる前に、クレープは何やら紐のようなものを咥えていた。


「ん?」


 見覚えのあるそれを見て、俺は自分のガウンを結んでいた腰紐がなくなっていることに気がついた。


「あ、おい、返せ……クソ犬ッ!!」


 俺は怒鳴り声をあげて立ち上がった。


 その勢いで飛びかかろうとして、しまった、と思った。


「あ……」


 場が凍っていた。


 マルゴが紫色の片目を瞬かせ、怯えた表情をしていた。彼女の肩に乗ったカモも目を点にして警戒していた。本を持つパイロンの手が小刻みに震え、レイル先生の白衣は俺の血に汚れていた。クレープは紐を咥えたまま先生の椅子の下に潜り込んで、尻尾を股の下に巻き込み縮こまっていた。


 しかも、俺のガウンは前が全開になっていた。


 戦傷だらけの胸腹部の筋肉が、手術の傷にあてがわれた膿だらけのガーゼが、昔より少し縮んだ両の脚が、


 さらに、決して出してはいけないものが、皆の前に晒されていた。


 喉に食い込む首輪の冷たさに、俺は振り上げたままの拳を下ろす。


「……すまん」


 そう言ってガウンの前を閉じ座席に戻ると、めまいがして、最悪な気分になってきた。


 そして、俺は言った。


「俺はタンタル。戦闘狂だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る