「戦闘狂」という名の病気を治療する病院で
与田 八百
1. Proud Battlemania
1-1
「団長、もう殺してしまいませんか?」
「ならぬ。王は治療を望んでいる」
そんな騎士団長たちの言葉の意味が、俺にはわからなかった。俺はずっとアスタチンと戦っていたはずだ。なのになぜ、こんなことになっているんだ?
俺は、手足を縛られ転がされていた。
もう少しで押し勝てる。たしか、そう思ったはずだ。鍔迫り合いする刃越し、アスタチンの赤い瞳に、わずかな動揺が走ったことは思い出せる。
そこから先は……、
俺を見下しながら、副団長が言う。
「治療って、治るわけないでしょうに」
「それは私が知るところではない」
と、騎士団長が答える。
「おい、麻酔をもう一本撃っておけ」
直後、誰かの放った矢が俺の左肩口に突き刺さった。鮮やかな緑の矢羽――右足に刺さっているのと同じ矢だ。麻酔。なるほど、さっきから体がうまく動かないのはそのせいか。
「治療ってなんだ?」
俺は尋ねた。
「治療する気なら、なぜ攻撃する?」
「まだわからんのか」
騎士団長が答え、顎をしゃくった。
「周りを見てみろ」
「周りって……」
戦場だ。
そこにあるのは敵と味方の死体、血と肉と骨、砕けた武具に、瓦礫と炎。普通だ。いつも通りの戦場だ。だが、こいつらに割り込まれたせいで、アスタチンはもういない。それどころか、生きた敵すら一人もいない。おかしな点といえば、味方に囲まれ武器を突きつけられていることくらいだろう。
俺は言う。
「……まぁ勝った、みたいだな?」
「そうではない」
騎士団長の声が一段と低くなる。
「貴様の独断で今日も被害が拡大した」
「でも、勝ったんだろ?」
「部隊のほとんどを失って勝っても、勝ったとは言わん」
「それよりアスタチンはどうなった? どこへ逃げた」
「知らぬよ。アスタチン、アスタチンって貴様、我が軍、味方のことはどう思ってるんだ?」
「味方って、そりゃ味方だろ? 敵じゃない」
「俺にはお前が敵にしか思えないっ!」
副団長が割り込んでくる。
「敵じゃないと言うのなら、お前、俺の名前を言ってみろ! 知らぬとは言わせんぞ」
「副団長だろ?」
「そうじゃない。名前だ。役職じゃなく俺の名前を言え、言ってみろ!」
「うーん……」
気まずい数秒の時間があった。俺は答えられなかった。
「クソがッ!!」
副団長が顔を真赤にして、俺の顔を蹴りあげた。
「いいかよく聞けクズ野郎! 味方ってのはな、まず第一に上官の命令を守るものなんだよ!
「……知らん」
「貴様ッ!!」
と、今度は騎士団長が俺の腹を踏みつけてくる。
だけど、俺にはこいつらの名前がわからなかった。追加の一発が効いてきたのか、急激に頭がぼんやりしてきたが、別に思い出せないんじゃなくて、覚えてすらいなかった。
戦場では力こそすべてだ。
弱いやつはすぐに死ぬ。上官だろうがなんだろうが、偉いだけで俺より弱いこいつらの名前なんて覚えても意味がない。俺の部下が死んだのだって、単にそいつらが弱かっただけだ。
なのに、
騎士団長たちはごちゃごちゃとわめきながら俺を蹴り続けている。
いよいよ全身に麻酔が回り、どれだけ蹴りつけられてもまったく痛くなくなったが、勝ったのになんでこんな目にあうんだ、と腹の底で怒りが渦巻く。アスタチンとの戦いを邪魔されただけでもムカつくのに、こんなのあんまりじゃないか。
とはいえ、いまさら仕方ない。
そうも思った。矢を受けたのは俺で、こうなったのも俺が弱かったからだ。それにどうやら俺は殺されるわけではないらしい。生きてさえいれば、またアスタチンと……
そうして、俺は意識を失った。
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