第46話 流星からの物体????
「先に作戦を立てよう」
「……作戦って、何の?」
海底のクレーターから少し離れたサンゴの影に隠れ、様子をうかがう。
「いやまた中ボス戦とかあるだろ」
「……そう、かなあ、やっぱり」
「で、あの隕石がただの隕石なら、クレーターのほぼ中心から動いていないはずだが」
俺はそのクレーターらしきものの中心あたりを指さす。
「……何も、なさそうな感じ」
「砂に埋まったか、あるいは移動したか」
「……移動するとしたら、どこに?」
「敵の立場で考えたら、クレーターの中央に隕石を置いて、すぐ近くに潜むのがいいんだろうけど、そこまでの知能があるかどうか」
「……でもとにかく、近づくしかないよね」
「今さらだけど、水生モンスター相手に水中戦は無理がある気がするな。水中を高速移動する魔法とかある?」
「……もっとレベルが上がれば」
「今は無理か……。じゃあ、海面を歩く魔法は?」
「……あるけど、水中の敵と戦うのは難しいかも」
「そうか……まあ、地上で空飛ぶモンスターと戦うようなもんだからなあ」
人差し指であごをかきながら、俺は考える。
「魚より速く泳げるわけないが、せめて足場でも作れたらなんとか動けるんじゃないかなあ」
「……足場かぁ……じゃあ、こんなのはどう?」
カズハは急に声をひそめ、俺に近づいて耳打ちする。
「いやここで内緒話する必要ある?」
「……相手が何かわからないんだから、もしかしたら作戦を聞かれちゃうかも」
仕方がないので、カズハの話を間近で聞く。なんだかくすぐったい。
「それ、漫画でやってたやつじゃないか。ほんとにちゃんとできるの?」
「……この世界ならできる……っていうか、やってみたい」
そういうのは同性の相棒とかとするもんじゃ……。
「それはそんなすぐにできるもんじゃなさそうだが」
「……タイミングが合えば、しよ?」
「戦闘中は難しそうだがな。さて、そろそろ水面近くから行くか」
俺が水面を見上げたその時、何か不自然な光が水面の向こうに見えた気がした。
そこに突然黒い影が生まれ、大きくその体をひるがえし――。
「まずい。さっきの、準備するぞ」
「え、え、もう?」
カズハと向かい合い、足をたたむようにして足の裏同士を合わせる。互いに自分の右足を相手の左足と重ねる。
こちらに手を伸ばしてきた彼女の手首を軽く握って離れないようにする。
ビキニ姿のカズハから目を逸らせつつ、海面を仰ぎ見れば、影は急速にその大きさを増していた。
思ったより速い!
「来るぞ。2、1!」
「えっ早!?」
1のカウントと同時に、俺はカズハの腕を放し、両足を一気に伸ばして彼女の足を大きく蹴り出す。
一瞬遅れてカズハの方からも蹴り返してきて、ふたりは互いの足の裏を足場にジャンプする形で勢いよく離れる。
バトル漫画で稀にある、仲間の体を足場にして飛んだりするやつ。いや待てよ、初めて見たのはサッカー漫画だったかも。
直後、ふたりの間を人間より大きな銀色の塊が弾丸のように駆け抜けた。
「……隕石!?」
「いや違う。あれが敵だ」
砂底近くまで突き進んだそれは、畳まれていたヒレを開き、急制動の後に反転する。
自身の身体の半分を越える大きな背ビレ。青と銀に塗り分けられた細長い体。鼻先から伸びる槍のような突起。
「てっきりボスはサメかと思っていたが、バショウカジキか。魚類最速と水中戦はさすがにまだ早いんじゃないか」
「……逃げられそう?」
初撃は何とかかわしたが、準備が必要だし、パートナーと一緒にいないといけないからなあ。
「いや、普通に逃げても追いつかれるだけだ。何とか一撃入れてその隙に隠れるか」
「……一撃って、どうするの」
「俺がおとりになるから、カズハが横から攻撃……」
「……やだ」
「いやこの状況でやだって言われても」
眼下のカジキから目を離さぬまま、作戦を伝えるが、カズハに拒否される。
再度突っ込んで来るかと思われたカジキは、先ほどよりはゆっくりとした動きで俺たちと同じ深度まで上昇してきた。
そして大きな円を描くようにふたりの周りを旋回し始める。
その頭上に、小さなアイコンが出現した。
【メイジマーリン】 魔獣 Lv.12
「
「……動物みたいな姿でも、魔獣の中には魔法を使うのもいるよ」
「もしかしてメイジマーリンって、
「……かもね」
ぐるぐると旋回を続けるメイジマーリンに対し、俺たちは死角を消すように背中合わせになる。
「だ、だからくっつくなって。動きづらいだろ」
「……あ、足場を作らないと」
今度は互いに反対を向いたまま、足の裏を合わせる。同じような手が何度も通じるか。
だが敵も、なかなか襲って来ない。初撃をあっさりかわされて、こちらのことを警戒しているのだろうか。
このカジキ、思ったより知能が高いのかも。
そう考えると、急に
いや、違う。
「水温下がってる!?」
周囲の海水が、
メイジマーリンの頭上に【アイスウォーター】の文字が浮かぶ。これが魔法なのか。
海水温はさらに下がり、視界の端に低温の状態異常を示すアイコンが現れた。寒さでかじかんだように、体の動きが鈍くなる。
「さっ、さむ、寒っ!?」
カズハが急に向きを変え、オンブのような体勢で俺にしがみついてきた。
「待てちょっと離れろ!」
そういえばこの人寒がりだった。部室の暖房が制限されているので、去年の冬は部屋の中でもずっとコート着てたな。
「……雪山で遭難した時、抱き合って温め合うって、本当に可能なんだ」
カズハがまた妙なことを言い出した。
まあ確かに、暖かい。暖かいけど……。敵の魔法による温度低下を忘れるくらいには。
しかしここは雪山ではなく、真夏の海中なんだが。
それでも、状態異常のアイコンは消えた。
「状態異常って、こんな方法で無効化できていいのか?」
「……いいの。アイテムや魔法しか解除方法しかなかった今までのゲームと違って、このゲームには無限の可能性がある」
「えらく偏りのある無限だな」
しかし、このままでは結局戦えそうにないな。
どうしたものか。
彼方の島の夏休み ―不思議系女子と過ごすネットゲームの夏― 広瀬涼太 @r_hirose
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