ラピス教会②
「それではアミィちゃん、この世界のことから知っていきましょう」
「はーい!」
「……これって俺いるか?」
「保護者同伴のほうが彼女も落ち着くだろう?」
「誰が保護者だ」
世界の中でも一番でかいとされているこのラピス教会の一室で、アミィのための勉強会が始まった。正直俺は教えるのが苦手だし、そういうのはティエラに任せちまおうと思っていたところなぜか金髪騎士もとい、ウィルに捕まって渋々同伴している。
「まず、この世界は四つの精霊と、そしてその精霊たちをまとめる女神によって成り立っています」
「そうなの?」
「はい。わたしたちが魔術を使えるのもその精霊たちのおかげです」
四つの精霊はそれぞれの大陸を加護している。北の地、フェルド大陸は火の精霊であるサラマンダー。南の地のアルディナ大陸は土の精霊のノーム、東の地のリヴィエール大陸には水の精霊のウンディーネ、そして西の地のウィンドシア大陸には風の精霊のシルフ。そしてそれらをまとめているのが世界の中心部にいると言われている、女神エーテル。これは子どもの頃から基礎知識として教えられるものだ。
ところがアミィの様子からしてそれすらも知らなかったようで。ティエラの目が若干丸くなったものの、それもすぐに朗らかなものに変わる。
「わたしたちはその精霊たちの恩恵を受けて生活しています。今こうして自然があるのも、大陸があるのも、精霊たちが支えてくれているからです。ここで先程少し話した『魔術』の話をしますね。アミィちゃんはなぜ人が『魔術』を使えるのか、その仕組を知っていますか?」
「ううん。けんきゅーしゃの人がてきとうに力をこめて、そして出せばいいって、そう言ってたけど」
「……そうなんですね」
ティエラと共に話を聞いていたウィルの表情も少し歪む。目が合い、俺も軽く肩を上げるしかなかった。
「わたしたちは精霊たちから力を借りて魔術を使えるようになります。ですが、借りられる魔力の量は人によって違うんです。そしてそれは目の色に表れています」
「め?」
「はい、例えばわたしの黄緑やウィルさんの黄色、そして青色はとても一般的です。傷を治したり火を出したりと普通の魔術は使えますがとても威力があるものは使えません」
「カイムの目……茶色だね」
「黒や茶という人は、ほとんど魔術が使えないんです」
「そうなの? カイム」
「ああ。だからその代わりにガジェットを使ってんだよ」
魔術が使えれば空を飛べるかもしれないし、まぁ空を飛んでいるヤツを実際見たことがないから「かもしれない」程度だけど。ただ逃げている最中に魔術で色々と妨害をすることはできただろう。橋でもわざわざガジェットを取り出すこともなかった。
「別に魔術が使えないから悪い、なんてことは決してありません。人には得意不得意があって、それが魔術が使えるかどうかという話だけなんです。それに魔術を使えない方々はその分とてもガジェットの使い方が上手なんですよ?」
「そうなんだ!」
「はい! 特にウィンドシア大陸のべ―チェル国にはその職人さんが集まっているんです。行ける機会があったらぜひ行ってみてください」
「うん!」
「それでは話を続けますね。わたしたちの目は一般的ですが、ランク付けで言うとその上にいるのがアミィちゃんのように紫色の目を持った人なんです」
「アミィの目って紫色なんだ?」
「はい、そうですよ? 紫色の目の人は自身に蓄える魔力量も多くてとても強い魔術が使えます。魔術のセンスを持っている人が多いんです。なので色んな功績を上げて表彰される方の目の色が紫色という話はよく聞きます」
「へぇ〜」
「それと実は世界に数人しかいないと言われる、紫よりも更に上にいる目の色が――赤色なんです。本当にごく僅かしかいません」
そうしてティエラによる勉強会は進み、色んなことを知るのが楽しかったのか常に目をキラキラさせていたアミィは疲れたのかすっかり寝入ってしまった。
「すみません、無理させてしまいましたね」
「別にアンタのせいじゃねぇだろ。はしゃぎ疲れただけだ」
脱力してスースー寝息を立てているアミィを抱え、割り当てられている部屋に運んでベッドに寝かせる。あの生臭神父……もとい、ここの責任者の言っていた通り今のところあの騎士たちがここにやってくる気配はない。
とはいえそれも時間の問題だろう。魔術の制御する方法を教えてもらったらすぐにここを発ったほうがよさそうだと息を吐き出し、部屋を出てさっきの場所に戻る。
「アミィちゃん……本当に何も知らないんですね」
「一体どんな研究をされていたんだろうか……」
「……アミィちゃん、実は十四歳らしいです」
「……はぁっ?」
二人が神妙な顔をして喋りだしたかと思えば、とんでもない発言に思わず声をひっくり返してしまった。十三って、もうちょっと成長しているだろうしそれにあの知識のなさもあり得ない。
っていうか、もっと下かと思って勝手に着替えの手伝いをしてしまったんだけど。それはまぁ、事態が事態だったしここで言うことでもないかと口を噤む。
けど驚いたのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。ウィルが唖然とし開いた口が塞がらないでいた。
「僕は十にも満たないと思っていた……しかし、それにしても……」
「実験のせいで成長過程に弊害が生じたんだろうね」
奥から神父が神妙な顔をして歩いてきた。ちなみに生臭神父の目の色は、さっきティエラが言っていたように世界に数人しかいないと言われている赤色だ。ティエラ曰く誰かを攻撃するために魔術を使っているところを見たことはないが、この教会の結界は神父が張っているらしい。あと何かあった際には物理的に解決しているんだと。
「それに……悪いけどあの子の首をチラッと見せてもらったよ。まさか媒体が直接身体に着いているとはね」
「もしかしてそれも成長に関係しているのでしょうか……?」
「恐らくそうだろうね。研究者たちはあの子の身体がどうなろうと知ったことじゃなかったんだろう。本当に『兵器』を作っていただけ」
「ッ……あんな、幼気な子になんてことを……!」
「ウィルの怒りももっともだ――カイム、君が偶然見つけてよかったよ。精神的にも弊害が生じている中で『逃げる』という選択を取ったということは、それほどまでに追い詰められていたんだろうから」
重い空気が辺りに漂う。自分たちが想定していた以上にアミィの身に起こっていたことはとてつもないものだった。今日一日中ずっとアミィに色々と教えていたティエラは色んな感情がわき起こったのか、目を赤くしながら鼻を啜っていた。
「わたし、明日ちゃんとアミィちゃんに魔術の制御の仕方を教えます。それだけじゃなく、もっと、色んなことを教えてあげたいです」
「うん、ティエラは教えるのが上手いからね、そうしてあげなさい」
「はいっ……!」
「カイムはちゃんとあの子をミストラル国に送り届けること。あそこの王ならしっかりと保護してくれるはずだ」
「そうだな」
「それと……ウィル。何を思いどう感じたのか、それをちゃんと思い返して今後のことを考えるといい」
「……はい」
ちゃんと神父らしいことできるんだな、と思った言葉はどうやら口に出していたらしい。神父が目を丸めキョトンとしたあと、小さく笑って笑顔を浮かべた。
「私は君たちよりもずーっと長生きだからね、それなりの助言はするさ」
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