第21話 悔しい俺

  (おいおい、俺の目の前でする気なのかあ?早すぎるよ、まだ鈴木さんって呼ばれているのに…やめろよ!)

俺は悔しくて邪魔したくなった。涼子には気付かれない様に大人しくしていた幽霊の俺だが、もう黙っていられない。奴の首筋に思いっ切り息を吹きかけてやった。

「おおっ!?」彼は首筋に手を当てて驚いている。

「どうしたの?」

「何か首筋に冷たいものが当たって ゾクッとした。」

「ええ?」涼子は目を見開いて辺りを見回した。

「鈴木さん、霊感あるの?」

「ないですよー、でも本当に首筋に冷たい物が当たったんですよ。」

「………」涼子は黙ってユウを見た。(違うよね……)気持ちが通じたのかユウは

ニャーと一声、知るか!って感じだ。

「あっ、そうだ。プレゼントがあるの、まだ渡してなかったわ。」

涼子は空気を変えようと思ったのか急に話題を変えた。チェストの引き出しから

薄い細長い箱に赤い包み紙でブルーのリボンをかけたプレゼントを持ってきた。

「気に入ってもらえるかしら?」

「ありがとう、開けてもいいかなあ、」

「ぜひ、」

中はネクタイだった。マスタードイエローに少し暗い茶系の色で 超有名なキャラクターのシルエットがドット柄になっている。

「可愛いですね。紺系やグレー系のスーツにも合いそう……」

「気に入ってくれた?」

「ええ、もちろん。」

「お客様が気付いて 会話が弾むのもいいかなって思って、」

「ありがとうございます。」

「当ててみて、」涼子はネクタイを鈴木さんから取り上げて 彼の首に回して軽く結んで眺めると 「うん、いい感じ……」」そう言うと そのままネクタイを引っ張り

彼の顔を自分に近づけて ほんの少しだけのキスをした。

(あ――っ!そんなことをしたら、彼はもう止まらなくなるじゃないか。ほら、彼は凄くその気になっている。)

「涼子さん、今日は帰らなくてもいいですか?ここに泊まってもいいですか?」

(ほーらー!)

「……帰るつもりだったの?」 (え――っ?)

「いえ、涼子さんの手料理を食べたいと言った時から泊まるつもりでした。」

(正直か!)

「私も……そうだろうと思ったけど承諾しました。」

「優さんに似てるから?」

「今はまだそうかな……貴方といると優といる様な気持ちになるの、そんなの凄く

失礼だと言う事は分かっているけど……」

「涼子さん、お願いがあるんです。僕のことを間違えて優と呼ばないで下さい。それはさすがに傷つく……」

「分かった。間違えない。」

(何という会話だ。鈴木さん、怒れよ!怒って帰れよ!それとも遊びだからどうでもいいのか?涼子を抱ければそれでいいのか? あ~本格的なキスしてる~)

その後、ふたりは食事の後片付けを一緒にして 鈴木さんは一人で先に風呂に入った。鈴木さんが風呂から上がると 入れ替わりに涼子が風呂に行った。彼は早々と

ベッドに入り、涼子が風呂から上がって来るのを待っている。彼は涼子が用意した俺のパンツとパジャマを身につけている。ムカつく……泊まる気だったのなら、替えのパンツくらいは持って来いよ。 

涼子のベッドに入って幸せそうな鈴木さんの顔を見ていると、むかむかしてまた意地悪をしたくなった。 思いっ切り念力を込めてベッドをゆすぶってみた。

「わあ~! 地震?」彼はベッドから起き上がり周囲を見回した。

「何なんだ?」そのタイミングでユウがベッドに飛び乗り、布団の上に寝そべった。

「ユウ、焼きもち焼いてるの?」彼がそう言うとユウはシャア――っと怖い顔をして

鈴木さんの手に猫パンチを出した。

「え――っ! こっちのユウもライバルかぁ? 前途多難だなあ、」

洗面所ではドライヤーの音がしている。 涼子が風呂から上がって髪を乾かしているのだ。以前は俺が涼子がきれいに洗った髪でベッドに入って来るのを ワクワクしながら待っていたのだ。今はあいつが待っている。くそう!

俺は起き上がった彼の後ろ頭を チョイと小突いた。

「いて――っ!何?」

「何やってるの?」涼子がベッドに近づいて聞いた。

「いや、別に何も……ただチョット変なことが……」

「変なこと? あっ、ユウ、今日はベッドの上はダメなんだ、ごめんね。」

と言うと涼子はユウを抱えてケージの中に入れた。そしてブランケットを掛けた。

ユウが見ていると、俺に見られている様な気がするのかな? これは5日前に涼子が買ってきたものだ。ユウに邪魔されないように用意したのだろう。そしてそれは涼子も彼に抱かれたかったと言う事を意味している。

ベッドの方を見ると 涼子がベッドの中に入ろうとしているところだった。

(あ――っ無理だ! 見ていられない、」

俺は小さくなってユウと一緒にケージの中にいることにした。ユウは体を丸めて目を閉じ、眠る体勢になっている。空気が読める猫だ。 俺はというとベッドの中のふたりが気になって仕方がない。ブランケットが掛けてあるのでケージの中は暗くて周りは見えない。しかし、布団がガサガサと擦れる音は聞こえて来る。そして、ふたりの話し声も聞こえて来た。

(もう、俺はここに居ちゃあいけないのかなあ、橘がひとりで寂しそうにだったし、

あっちの世界に行くかなあ……)

ずっと幽霊で涼子を見守って行こうと思っていた俺だが、やはり無理だ。彼氏ができたんじゃ俺の居場所はない。もう、ここを出て行くか……

「涼子さん、……」

「ダメ、こんな時にさん付で呼ばないで…涼子でしょ、」

「うん、涼子…… 本当にいいの?」

「ひとつのベッドに入っているのに まだ迷いがあるの?」

「僕はないよ、涼子が後悔しないか心配で……」

「もう、おしゃべりはやめて、」  

「うぐっ……」

(はあ~、 どうも涼子がキスで鈴木さんの口を塞いだような…… 涼子…積極的だなあ、はあ~、)

その時、横から凄い力で引っ張られた。



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