第12話

リーゼロッテは内心ふてくされていた。

しかしそんなことをおくびにも出さず、鈴蘭の絵が描かれたティーカップを口に運ぶ。

ティモシーにサロンでお茶をと誘われたのだが、喜び勇んで向かえばユリーアとレイナが丸テーブルに既に座っていたのだ。

二人きりだと思っていたリーゼロッテは出鼻をくじかれた気分だ。


「申し訳ないな。六月の誕生日に開かれるパーティーで婚約者を決めるように言われているから、交流する場を設けさせてもらった」


 ティモシーが苦笑する。


「素敵な場を設けていただいて、ありがとうございます」


 内心つまらなく思いながら、正面に座っているティモシーに微笑んでみせる。


「殿下、お茶をどうぞ」

「ん?ああ、ありがとう」


 右隣に座っているレイナがすいと自然な動作でティーポットを手に取り、空になったティモシーのカップへ紅茶を注ぐ。

 そのとき、さりげなくミルクと砂糖入れも寄せられた。


(この女、デキる!)


 先ほどから鬱陶しくない程度に、痒い所に手が届くような気配りを見せるレイナにリーゼロッテは内心舌打ちだ。

 向かいの席に座っているからリーゼロッテが立ち上がって世話を焼くと仰々しくなる。

 存在を意識してもらうのに正面の席が空いていたのはラッキーだと思ったが、そうではなかったかもしれない。

 それに。


(相変わらず喋らないな)


 ユリーアを盗み見ると、優雅なしぐさでお茶をしている。

 兄のクレメンスも優雅なんだよな、などと幼馴染をふいに思い出した。

 正直、猫被らなくていい相手であるクレメンスとは一緒にいて楽だよな、などと考える。

 それというのも自分をアピールしつつ鬱陶しくない主張、それでいて残り二人にも会話を振ると言うことをやっているからだ。

 正直、疲れてきた。

 二杯目の紅茶を飲み終わったティモシーは立ち上がると。


「すまないが生徒会があるから、そろそろ行くよ。それじゃあ三人とも」


 軽く手を上げると、ティモシーはさっさと行ってしまった。


(やっぱり王子は婚約者と言われてもピンときてないのかな。攻めにくい)


 笑顔で見送りながらも印象を残せたとは思えず、むむむと考え込む。

 それにとチラリと残された二人を見やれば。

 残った紅茶を優雅に飲んでいるレイナ。


(この子はさりげなく甲斐甲斐しい……あなどれない)


 ユリーアは用は済んだとばかりに立ち上がってテーブルを後にしている。


(くっこっちは黙ってても外見がいいから自信があるのか?)


 お先に失礼しますとテーブルを離れると、口をへの字にして腕を組んだ。


「やっぱりお膳立てされた場所じゃ駄目だな。自分から行かないと」


 鼻息をふんと鳴らして、リーゼロッテは気合を入れ直したのだった。

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