第9話 食料採取にゆくぞ!

 というわけで、わたくしユウは森に帰ってまいりました! 魔石は大事! でも、ご飯はもーっと大事! 


 さあ、美味しそうな魔獣さんは何処かなあ、山菜的な物や木のみもいいよねえ。毒とかこえーけど! 


 これ知ってる山菜に似てるけどちょっと違うんだよなあ……一応少し取っておくけど口にするのはこえーね。


 普通に散策してっけど、ここ異世界だからな。植物ひとつとっても、見たこと有るようで無いようなもんばかり。こいつぁ植物性の食材手に入れるのキツいわ。


 見てよあの木。葉っぱが水色だぜ? 口に入れるのはこえーけど、見てる分には綺麗だよね。なんかそんなんがチョイチョイあってさあ、嫌でも緊張感を高めるってわけよ。


 ああ、そうだスマホ使えるってことは写真も撮れるじゃんね。後で思い出に浸るためにも、パシャリパシャリと異世界の謎動植物を撮影しておこう。 


 お、あの花綺麗! パシャリ。あの鳥美味そう! パシャリ。 あっち木変なのー! パシャリ あの木の実おもしれえな! パシャリ。


 【New! ラッツ】


 むっ! なんか通知が来たぞ、なんじゃこりゃ。


 通知をタップすると例のアプリが立ち上がり、密かに増えていたらしい図鑑ページが開かれた。


 てっきり通知が届いた『ラッツ』だけかと思いきや、さっき撮った花やら鳥やらも登録されている。あれか?『○種以上登録でアンロック』みたいな隠し機能ってやつ? あー『楽しく活動出来るためにそうしたのよ』なんて言うパンちゃんのドヤ顔が見える……。


 いやこれはじめから入れとけよ! 知ってたらもっとサクサク食料調達出来たじゃんか。毒だったら怖いなって、ちょっとずつしか採ってなかったんだぞ。


 いやほんと、自給自足生活には図鑑って必須だよね。いかにも旨そうな赤い実が猛毒だ! とか 『食べられる、食べられるが火を通さないと腹を壊す!』とか『すげーうめえけど酒飲みながら食うとえらい目に遭う』みたいな悪質な罠キノコみたいのが地球でもざらにあるかんな。実装の仕方はアレだったけど、素直に感謝しておこう。ありがたやありがたや。


 さて、折角実装されたんだし図鑑を眺めてみるか。とりあえず、今通知が来た『ラッツ』を……っと。ぽちり。


◆◇

 

【ラッツ】可食 生食可能

 甘酸っぱいこの味、もしやこれが初恋の味?

 そのままデザートにしてもいいし、フルーティな味わいは料理の調味料としてもバッチリ!

 使いみちはアナタ次第★


◇◆


 ……説明がうぜえ。つーか、書いてる情報って食えるか食えないかと味についてだけかよ。今必要な情報はまさにそこだからさあ、別にいいんだけどさあ。


 うーん、とりあえず手軽に集められそうなのはラッツかな? 生食でもイケるってのはかなりポイント高いし、目についたら採って行こう!


 ……いやあ、ラッツ有りすぎだわ。嬉しい悲鳴だわ。ちょっと歩けば梅くらいの実が鈴なりになってるのが目に入るわけですよ。最初はね、嬉しかったんだけどさ、ひとつ採ってはスマホにコツン、ふたつ採ってはスマホにコツンでしょう? だんだんめんどくさくなってきてさ、上着のポケットにいれてたんだけど、もうパンパンよパンパン! こりゃ採取用の小袋あったほうが良いな。


 そんな感じで暫く撮影したり採取したりをしながら森をさまよっているうちに小腹が空いてきた。どうやらさっそくラッツの出番のようだ。


 プラムみたいな薄い皮を剥いて一口食べると――まあ、見た目通りの味がしたよ。ビタミンたっぷり! そんな感じ。酸っぱいグミみたいな感じね。口がキュッとして涎がダバァするけど、食えないほどじゃあない。アリよりのアリだわ。


 こいつはそこらにアホほど実っているから、俺は最悪これで凌げないことも無いけれど、クロベエ先生的にはアウトのようだ。まあ、ネコだしな。いくら雑食と言っても果物はなあ。匂い嗅がせたら見たことがないほど嫌そうな顔してましたわ。


 クロベエのためにも、お肉をみつけなくっちゃ! と、のんびりと獣的なものを探しながら歩いていると……突如ずるりと足元が滑って……鈍い衝撃と共に視界が天を向いた。


 ……うん、こけましたわ。


「いってえ! なんだあ!? めっちゃ滑ったんですけど!」


 地面に手を突くとぐにゃりとした感触。うへぁ……どうやら泥に足を取られたようだ。背中やおしりがドロドロでとても気持ち悪い……うう、お洗濯とかどうしよう……と、嘆く俺と対象的に喜ぶアホが1匹。


「うおおおお! 泥だあああああああ!!!!」

「あっ! よせ!」


 時既に遅し。


 俺が止める間もなく、クロベエは泥に飛び込んで……嬉しそうにゴロゴロゴロゴロ転がりまわっている。あああ……なんてこった。


「これ好き! これやるとサッパリする!」

「そうかい……ちゃんと後で綺麗に洗うんだぞ……」

「う、うん!」


 無邪気にゴロゴロ泥で遊ぶクロベエを見ていたら思い出した。


 イノシシはこういう泥場でゴロゴロすることにより身体に泥をつけて、ダニから身を守る習性があるらしいんだ。泥でコーティングされた身体はダニの侵入を許さず、さしずめ泥の鎧をまとったよう具合になるらしいんですわ。


 まさかね、と周囲をよく観察すると、何か大きな獣が残した泥の痕跡が確認できてしまった。ああ、なんてこった。異世界でも似たような事をする生き物がいるらしい。


 それそのものが居るとは思わないけどさ、バッテリーのワンワン見るに、そこまで違う感じではなくて、何処か似たような存在が居るんじゃないかなーって思うんだよね。


 つまり、この泥を利用したのはイノシシなのでは! 肉が居るのでは! そう思うんですわ!


「おいクロベエ! ちょっと辺りを探ってくれ! 多分肉が居るぞ!」

「おっ! まじか! ようし! まかせろー! けはいさっち? をするぞ!」


 肉という単語に反応したクロベエが泥から飛び出し辺りを探る。スンスン、ふごふごと辺りを探知……いや、これは気配察知というよりは匂いを嗅いでいるのでは……。


「むっ! むむむむーん! ユウ! あっちがくさいぞ!」


 やっぱ匂い嗅いでるだけじゃねえかよ。


 ともあれ獲物の場所はわかった。早速突撃……と、言いたいところだけど、ここは慎重にだ。なんせ想定されるベースは『イノシシ』だからね。アレが魔獣化した姿ってなると、きっと穏やかな存在ではないはずだ。なので、慎重にゆっくりと「臭い」方向に向かう。


 ヤブを掻き分け、そろそろと歩いていくと……なにやら妙な音が聞こえ始めた。警戒度を上げ、さらにゆっくりゆっくりと、慎重に進むと……鼻で穴を掘る獲物の姿が目にはいった。


「居たぞ。やっぱ居たのはイノシシ……でいいのかな、これ……?」


 体長およそ2m、足は6本、額を鈍く光る何かで覆う弾丸のような形をした魔獣がフゴフゴと一生懸命穴掘りをしている。名前を調べようとスマホを向けると……それが悪かったのかこちらの気配に気づいちまったようで、ゆっくりと振り向いた。

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