第8話 はじめてのはんてぃんぐ

 というわけで森にやってきました、わたくしユウですけれども。いやあ、森ですわ。木がいっぱいですわ。見通しが悪いですわ。獲物探しにくいですわ!


 こういう時は異世界ならではのファンタジーな力に頼るしかねえな! ってことで、クロベエに無茶振りをしてみよう。


「クロベエ、適当に索敵して獲物を探してくれ」

「え、さくてき?  おれになにをもとめてるの? 猫だよ おれ」

「なんかスキルとか生えてないの? 魔獣的なさ」

「無茶ぶりするよねー…… うーん 言われて見ればあっちの方からイライラする感じがする気がする……」


「やればできるじゃん! 行ってみよう!」


 クロベエがイライラすると言う方向に行ってみると、中型犬のような何かが数匹ノシノシと森の中を歩いていた。まじかよ、ほんとにスキル的なの生えてんじゃね、こいつ。


 ぱっと見は普通の犬のような姿だが、三ツ目で1本角が生えている犬を俺は知らない。うん、これは魔獣だな!


 ひらりとクロベエから飛び降りてスマホから取り出したナイフを構える。犬VS俺……ふむ、俺がご飯になる未来しか視えねえな。

 

 うむ、ここはモンスターバトルと行こうじゃないか。


「いけ! クロベエ! 体当たりだ!」


 なんとかマスターよろしく、ノリで言ってみたけれどクロベエはじっとしていて魔獣に向かって飛び出す様子が無い。


 流石に唐突すぎたかと、隣のクロベエを見れば泣きそうな顔をして固まっていた。


 ああ……これ、散歩中に野良猫と遭遇したときの顔だ。口元をフコフコと膨らまして、耳をぺたんと寝かせ、尻尾を太く膨らませて。そして何時でも逃げられるように腰を引かせている。


「えぇ……そんなビビっちゃう?」

「だ……だだ……だって犬だよ? こここ……怖いじゃん?」


 猫には2種類居る。犬を見るとすっかりビビって逃げるものと、小馬鹿にして近づいたり飛びかかったりするもの。クロベエは余裕で前者であった。


「いいかい、狸のおじさんよくお聞き? おまえは今、身体がとっても大きくなっているんだ。見ろよあいつら、子猫と大して変わらないじゃないか? 子猫にびびったことはあるか? あんまり無いだろう? やれるな? やれるさ! よし! やろう!」


 諭すように語りかけると単純なクロベエはスッと憑きものが落ちたような顔になった。


「そうだ! 今のおれは強い! やれる! うおおおおおおお!」

「それにみろよ、あれ! あんな気持ち悪い犬なんて見たことねえだろ! あれは犬じゃねえ! なんかこう、あれだ、キモいアレだ!」

「うおおおお! 犬じゃないならやれるぞー! キモいアレ! ぶったおーす!」


 流石に三つ目のワンちゃんたちもこちらに気づいたようで『グルル』と唸って臨戦状態だ。けれど、こちらのネコちゃんもすっかりやる気だぜ? 俺はちょっと及び腰だぜ?


 グガオンと、吼えながら一匹のワンちゃんが飛び出してきた。ヒェエ! 喰われちまう! しかし、それを迎撃するかのように横から飛び出した黒い巨体、クロベエだ。


 流石はクロベエ先生。なかなかにやるもんだね。


 猫じゃらしで鍛えた猫パンチは魔獣達をあっという間に無力化し、ガブリガブリととどめをさしてあっさりと勝負はついた。


 クロベエと遊んでる時に何度も猫パンチ食らったけど、あれ結構痛かったもんなあ。体格が良くなったら……そらああなりますわな。


「ガウゥウ! ガゥウウウニャオゴロオオン!」


 自分でやれと言っておきつつも、目の前に広がるスプラッタな光景に若干引いている。野生に戻ったクロベエがガブリムシャリとキモドッグを噛み遊ばせていて、真っ赤なアレがドロドロのぐちょぐちょですわ。クロベエちゃんの口元も中々に赤いですわ。


 いやまあ、クロベエの母猫がネズミやら鳥やら取ってくることあったからさあ、その延長だと自分を騙せば……いや、無理だわやっぱワンワンタイプとなるとちょっと来るものあるわね……。


 なんて、微妙に心を痛めていたところで空気を読まない間抜けな音と共にメッセが入った。


 ポコン!


『あ、そいつらお肉は臭いので魔石だけとるといいですよ。そこらに置いとけば、直ぐに他の子達のご飯になるからポイしちゃっていいです』


 う……そうかあ、解体しなきゃねえのかあ。倒したらドロップアイテム残して消えたりしねえんだなあ……まあそうかあクロベエ先生、めっちゃかじってるもんなあ。


 解体……いいよね……よくねえよ! 俺は普通の日本人だぞ! 狩猟免許を持っているわけじゃねえし、都合よく田舎のじいちゃんがマタギだということもないんだぞ! 解体なんて……解体なんて……!


 ……魔石の位置を聞いてそこだけ切り開いてなんとか回収した。


 おなかにね、ナイフを入れるとね、ゾワッとしたのね。ああ、これが命を奪うって事なんだあって思ったの。まあ、既にお亡くなりになってたけど。


 でも凄いよね。1匹頑張って解体したら不思議と慣れちゃったんだよ。魔石がね、魔石が悪いの。頑張って取り出した魔石をね、じっと見つめているとね……。


(こいつが俺の生命線……スマホを充電出来る魔石……これが無ければあのノベルやあの漫画の最新話を読むことが出来なくなる……あれ……こいつらが動くモフモフ魔石ケースに見えてきたぞい)


 こんな具合になれてきちゃってね……うん、これでなんとかやっていけそうだよ。我ながらちょっと危ない感じはするけどね! サイコさん❣コンニチワ ^□^ だよ!


 なお、女神から届いた若干引き気味のメッセによれば、魔石を抜いた魔物は食べ残されていても数日で魔素となって世界に還るとのことだった。途中で我に返ったクロベエも『これをお腹いっぱい食べるのはちょっと……』と、メインのお食事にはしない感じだったのでその報告はありがたかった。

 

 俺達のために犠牲になってくれてありがとう、森に還ってゆっくりお眠りよと、そっと手を合わせて再び狩りに向かったのでありました。


 ◇◆



 そして――


 昼過ぎまで頑張った結果、俺が狩った魔獣の数は俺が3体、クロベエが12体と結構なもんになった。


 うんそうだよ、俺も頑張ったんだぜ。正直さ、わんわんに刃物を振りかざしてるようで気分は良くなかったけれど『ここは異世界異世界……魔獣魔獣…ファンタジーファンタジー魔石袋……魔石袋……』と自己暗示をかけまくって狩りにも慣れることに成功しましたわ! これで良いのか俺! いいんだよ、うるせーな!


 狩りも終わったので、さっそく充電タイムだと、魔石にスマホを乗せてみると1つにつき20%ほど回復した。ログボ石とは……一体……。


 なんだかしょっぱいイクラ経験値小をログボで配っていた某ソシャゲを思い出してしまったわ。


『20%ですか、まあ雑魚なのでそんなもんですね』


 とのことだったが、お前はそれ以下の魔石で誤魔化そうとしてたんだぞ? 雑魚呼ばわりはひどくね。


 15体で満充電3回分。今日だけで3日分稼げたことになるわけじゃん。いやあ、がんばったよね、俺ら。


 でも油断は出来ないからな。魔物はちょいちょいリスポーンするから尽きることはない、とのことだったので、何かあって狩りが出来ない日のことも考えて日に10体をノルマにする事とした。今後魔石の消費が増えるかもしれんしな、備えあれば嬉しいなの精神よ。


 さて、魔石の目処はたった。パンちゃんが言うにはどうやら美味しいお肉になる魔物も居るらしい。日本で暮らしていた頃は狩りをして肉を得るなんて考えもしなかったけれど、魔石狩りで慣れた今の俺にはそれすらも容易い事……!


 というわけで午後からは食料調達に出かけることにする!

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