第6話 ユーリアの本来の姿

「ユーリア、いい加減抱きしめさせてよぉー!」


「……めんどい」


 めんどくさがりなユーリアは、


「ディオ・デーア・クローチェ」


 と唱えると、光に包まれ一瞬にして自らの肉体を変化させた。


「……!!」


 驚いたアザリのコンマ0.05秒の隙をユーリアは逃さず、その体に強烈なラリアットを決める。


「ぐふっ!」


 地面に背中を叩きつけられた痛みを感じつつその場に倒れたアザリだが、それはそれは幸せそうな顔をしていた。


「……つかれた」


 気だるげで眠そうな三白眼で、彼女は彼を見下ろす。いつもの4等身幼女ではなく、16才の彼女本来の姿。


「うぅ……やっと、やっと一年振りに見られたユーリアの本当の姿。……結婚して下さい」


「……めんどい」


 間髪入れずに答えられた言葉。彼女の回答に不気味に笑いながら、アザリはユーリアの両足を掴んだ。


「……だよね、言うと思った。でも、もう離さな」


「汚らしい手を離せ……!」


 何やらアザリが呪文を唱えようとし出した所で、どこからともなく目の前に現れた三角お耳の黒い獣に、彼は腹を踏みつけられた。


 ぐえっ! と、声を出すアザリを放置し、


「ご無事ですか、お嬢様」


 と、彼の腹の上でお辞儀をする紳士。


「……ああ、大丈夫だ。それより城の警備はどうしたんだ、ショコラ」


「それならばご安心を。私の指揮する悪魔どもがしっかりと、最強の布陣でお守りしておりますよ」


 ユーリアの執事であるショコラは、にこやかな笑顔を見せて答えた。


「お前が魔王の元を去る時に、一緒に裏切ったという悪魔達か」


「ええ。あのポンコツ神では心配ですから、信頼のおける部下達を、と思いまして」


 嬉しそうに報告するショコラの尻尾は、ピンとまっすぐに立って喜びを表している。


「……ねえ、いい加減どいてくんない? というより僕も会話に混ぜてよ……」


 2人が話す中、会話放置された男が1人、淋しそうに言った。


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