第5話 アザリ・アムテレス

 扱いにくい神、ジャスティアスをお城に放置し、警備を執事のショコラに任せたユーリア。

 愛用のロザリオ型マジカルステッキを腰に携えて、魔王退治の旅に出た。


 緑豊かな森の中、暖かな日差しが柔らかな風と共に大地に降り注ぐ。


 そんな山奥にあるお城から出て10分ほど進み、ふとユーリアは思う。


「……つかれた」


 普段、城でぐーたら生活をしているユーリアにとって、自らの足で道を歩くのはとても難儀だった。


「やはりここは、空を飛んでいこう」


 魔法を使いふよふよと、効果音が付きそうなゆったりとした運転で、ユーリアは進む。


「快適、快適」


「……やはり楽だな」


「……めんどい」


 疲れ果てた世界最強の魔法少女は、その場に力尽きた。


 ああ、しばらくこうしていよう……草の匂い、心地いい……。


 地面に生い茂る草花は、さやさやと優しい風に揺れる。


 うとうとと、眠りに入りそうなユーリアの耳に、声が聞こえた。


 ──もしかして、ユーリア?


 ──やっぱり、ユーリアだ!


 ──ユーリア、ゆうぅりぃうあああぁぁああ──っ!


 声の主が彼女に触れる直前、ゆうぅりぃうあああぁぁああは、すぐさま反応し距離をとった。音よりも光よりも速いそれは、常人の目には一瞬にしてその場から消え失せたとしか思わなかっただろう。


「ユーリア! 会いたかったよー! なんで逃げるのっ、ひどいっ!」


「……ちっ」


「いま舌打ちしなかった? ねえ? ねえ? ねえ―! ひどいよ、ユーリアっ!」


 相手がごま粒にしか見えないほどに距離を取っても、ユーリアの半眼の瞳にはそれが誰かくっきりと映っていた。


「ユーリア、ひどいいぃ!」


 彼女の元に時速80キロオーバーの猛スピードで走って来る男、アザリ・アムテレス。


 寺院の僧侶であり、同時に神にも仕える神官でもある、神仏習合の寺院の最高位の男。

 休日のコーヒーブレイクに飲むようなカフェラテ色のサラサラヘアーに、すらりと伸びた身躯で着こなす法衣服は、鮮やかな緑と青の落ち着いた色合い。


 甘いマスクを顔に貼り付けている2枚目だが、行動が3枚目の残念な奴である。


「そんなに拒否するなんて、ひどい! 冷たい! もっと優しくしてっ!」


 話ながらも、ユーリアをその腕に抱きしめようと、凄まじい速さの抱きつき攻撃を繰り出す。


 それに対し、冷静にふわりと軽やかなステップでアザリの攻撃をかわしつつ、マジカルなロザリオ型ステッキで確実に急所を狙い、突きを繰り出すユーリア。


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