ソーシャルメディアの生存関係——Twitter、Instagram、TikTok②

 2006年に登場したTwitterは前節で触れた各ソーシャルメディアの間でも最も古く、10年以上の歴史を有する。その大きな構造的特徴は何より、投稿内容が全角140字に制限されていることだろう。Twitterは10年間に及ぶ歴史の中であらゆる形態で進化をし続けているが、全角140字という投稿の文字制限は一貫して維持され続けている。メディア社会学者の濱野智史は、このTwitterにおけるまとまった質や量の提供を制限する機能によってより更新間隔の短い、かつ更新の早いコミュニケーションが促されていると主張する[6]。これに加え、上述したようにTwitterがテキストベースで展開されたソーシャルメディアである点も無視できないだろう。2020年現在においては画像や動画、アンケート機能等のサービスを実装しているものの、2006年当初はテキストデータ以外を添付することはできず、例えば画像を添付するためには「TwitPic」や「Lockerz」、「フォト蔵」などといった画像投稿サービスを利用する必要があった。


 このようなテキストベースで提供されるTwitterの構造は、殊に国内では1990年代から続くネット掲示板に類似している。日本のインターネット受容は1970年代ごろから雑誌ベースで展開されてきたアングラ文化と融合しつつ発展してきたことにより、独自の文化圏を形成してきた[7]。1992年に経済学者ティムズ・バーナーズ・リーの発案から世界中に展開されたWWWは、当初アメリカ西海岸思想における自由至上主義の思想を受け継ぎながら、政治運動の一つとして発展してきたが、それが日本に輸入される際、西海岸思想に基づいた政治的思想が抜け落ちサブカルチャーが形成されるためのインフラ技術として輸入されたと言われている。

 そのため、日本のネット文化は独自の言語や表現を用いることによって、内々でのコミュニケーションを促進するための仕組みを自ら形成してきた。その代表的な例はネット掲示板「2ちゃんねる」におけるAA(アスキー・アート)や、独自の言語体系にあるだろう。1999年に登場したネット掲示板「2ちゃんねる」には、記号の組み合わせによってキャラクターを作成するAA(アスキー・アート)や、「kwsk(「詳しく」の略語表現)」や「イッテヨシ(「死ね」の間接的表現)」といった独自な記号表現があり、それらは原則2ちゃんねる内部でのみ使用された。濱野はこの独自な記号表現をユーザーが「ネタ」としてすることで、あたかもユーザーが巨大な「2ちゃんねらー」へと自らを同一化させていると述べている[8]。そのような性質ゆえに、2ちゃんねる内部の独自な記号表現やテーマは、それが集合的な個人である「2ちゃんねらー」の所有物であるがゆえ、実名によって私有化されることを徹底的に拒否する傾向を有している。2005年に生じた2ちゃんねるの代表的キャラクター「モナー」に対する株式会社エイベックスの商標化問題(「のまネコ問題」と称されている)は、まさしくこの事態を象徴する事象だ[9]。集合的人格としての「2ちゃんねらー」の存在を保証するために生じたこれらのコンテンツは、ユーザーが形成した文化の範囲内でのみ非営利にシェアされ、その外部での使用はユーザーたちにとって許されるべきものではないことがこの事件より鮮明になっていると言えるだろう。


 このような2ちゃんねるの特殊な文化は、情報環境の変化の影響を受けながら、2006年のTwitterにいくつかの点で継承されている。Twitterの登場した2006年前後は、従来はPC上で展開されていたインターネットが次第にモバイル化されていくという、大きな転換がこの前後で生じた時期である。2007年にはAppleが初めてのiPhoneを発表し、国内では後継種であるiPhone3Gの登場によってはじめて導入されている。また2020年現在で最も利用されているモバイル向けOSであるGoogle社のAndroid も、2007年に登場している。これらのモバイル向け情報環境の構築とその発展は、先述の濱野の主張にあったTwitterにおける更新間隔の短いコミュニケーションを増進させ、通信環境さえ整っていれば何時でも気軽にアプリケーションからの投稿を可能にしたと言える。その結果、テキストベースでのコミュニケーションツールは1990年代からPC上での投稿を基本としていた2ちゃんねるなどのネット掲示板から、モバイル上で投稿可能なTwitterへと移行している。


 それだけでなく、今日の情報環境において必須といえるサービスが徐々に開始されてきたのも、この時期だ。代表的なものとしては、今日最も使用されている動画投稿サイトであるYouTubeが2005年に登場している。それ以前、2000年代前半における国内ネット文化では、HTML内のリッチコンテンツであるFLASHを利用した「フラッシュ動画」と称される一連のコンテンツが社会的な人気を博していた。軽量なコンテンツであることから2ちゃんねる内で人気を集めたこれらのコンテンツは特に2000年代前半に人気を集めたが、それ以降はYouTubeや「ニコニコ動画」に代表される動画投稿サイトに地位を奪われている。フラッシュ動画はそれ自体が収蔵されたサイトとそれを受容し評価する「2ちゃんねる」のテキストベースのコミュニケーションサイトが別個に存在しており、動画投稿サイトでは動画本体と視聴者のコメントを統合した点で、より現実的なコミュニケーションを提供することを可能にした。そのようなインターフェイスの改善に加え、2000年代にフラッシュ動画で生じた著作権的問題などが加わることによって、事実上「脱2ちゃんねる」化とも言える現象が生じた。


 以上のような、ハードウェア的変化=情報環境のモバイル化と、ソフトウェア的な変化=新しいプラットフォームの開発という二つの流れの影響を受けながら、2006年に登場したTwitterは事実上2ちゃんねるの後継としての地位を獲得することができた。では、どのような点において2ちゃんねる的な文化をTwitterは継承しているのだろうか。先述の通り、2ちゃんねるには特定の「ネタ」を介したコミュニケーションによってユーザーたちが「2ちゃんねらー」となっているが、このような特定なテーマを介した匿名ユーザーの連帯はTwitter 上でも同様に観測が可能だ。例えば、2ちゃんねるにおける「ネタ」の一つとして「嫌中」や「嫌韓」に代表されるヘイトスピーチがある。濱野はこのような誹謗中傷を行うユーザーはその誹謗中傷の内容には関心がなく、自身がそれを通した「祭り」に参加しているという事実のみを楽しんでいるというが、このような誹謗中傷を通したユーザーの連帯は今日のTwitter上でも同様に見られるだろう。社会学者の北田暁大は2ちゃんねるでは特定の現象に対しての「解釈のずれ」を持ち込むことによって、対象をアイロニカルに批判することを行っていることを指摘するが、このような状況は今日のTwitter上においても同様に見られるだろう。このような批判の構造は後述するInstagramやTikTokには見られない特殊な構造であり、2ちゃんねるとTwitterが類似している点だ。以上のように、情報社会のモバイル化が進行する最も初期に展開されたTwitterは、それ以前の2ちゃんねる内で形成されていたユーザーの文化を継承したものとして、2006年に誕生している。 

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