2021年6月17日の昼


 2021年6月だ。夏は間近! で! 学生服を着た人間たちもウズウズ「暑っちぃよぉ!」 ワクワク「技術室の冷房シんだらしい!」 どこか足が浮いている。ボッカァン! と蹴っ飛ばされる机。バッと追いかけっこする男子‘s。太陽。ギラッギラの晴天直下はコンクリを真っ黒に焦がし、おんなじくらい肌を焦がした陸上部は酸素をムネに押し込んでいた。


 そこは学校内でイチバン大きな空間だった。前にあるステージには水とう、タオル。『一学期チャレンジ競目』 のちょっと厚い紙。関門がいくつか用意されていて、成し遂げるごとに次の競技に進める。SランクAランクBランク…ぐんぐん下がってKランク。Kランクはシャトルラン10回や50m走15秒切り。クリアしたらJランク。


「次ー! Jランクー!」


 立ち上がるのはたった一人、メガネのチビだけだ。


「ジェー! 今日こそアイランク行けよー!」

「黙れ!!!」


 チビは思いっきり地面を蹴ると、目の前にある1m弱のハードルを飛び込めようと走り出した!


「!、!、!!」


 だん、だんッ、と、視界で大きくなるハードル。

 「わっ、わぁぁ」 体はまるごと鉄球のように『がしゃぁん!』 ハードルをぶち壊さんと突っ込んだ。「わっはっはっは!」


 2021年6月。の、17日だ。あとちょっとで7月。それからあとちょっとで8月。夏休み! 一か月の猶予とたっぷり肉厚なプリントの束。例年通りホームワークはエアコンの風で渇き、月の末までアンタッチャブルになること請け合い。でも今はそんなこと知らないし、考えたくないし、転んだヒザのバンソウコがまぶしい。


「売店のパンもうなんもねぇよ! 菓子モチしか残ってねぇ」

「じゃあモチ食ってろよ。意外と腹に残るだろ」

「ヤだよ! てかお前を保健室に送ったからパン売り切れたんだぞ」

「見送れとか頼んでないしー」


 「オレ保健委員なんだからしゃあねぇダロ!」 紙パックの牛乳に『ぷすッ』 ストロー突き刺し「育ち盛りのミセイネンに、ひでぇ仕打ちだ」 前の席。昼でも点いた明かり。仰ぎ見るのは少年B。「食堂行けよ」「食堂ってほどじゃないんだよなー!!」


「5限なんだっけ?」

「国語」

「あー、国語ならワンチャン。6は?」

「英語」

「終わった! あれ気絶する。マジ」

「ひひひ、そしたら俺がお前を保健室に運ぶ番だな」

「やばっ! やっぱモチ買ってくるわ」


 Bは財布を持って立ち上がる。「俺にもなんか買ってきてくれい」「やだよ」「見舞いってことでさ」「なんの」「ヒザ」「お前が勝手に転んだんだろ!」 ずっと開きっぱなしのドアから「ねぇ○○いるー?」 覗いてきた女子を「っとごめーん!」 躱し抜け、Bは売店の方へと背を小さくさせていった。


「…」


 A…Bという存在が出ていた以上、最初ハードルに突っ込んだ少年をAとする…は「あの曲の意味は公式曰く…」 腕を組み「ネイル? 可愛いね!」 机に顔を寄せた。眠いのだ。それか「学校終わったらダンクの練習しようぜ!」 今から眠くするのだ。


 2021年6月17日…の、13時20分。だ! そうとも。この学校の昼休みは13時35分に終わる。それから5限が始まって6、水曜と金曜だけ7限目。それが受験期の三年になると毎日7限目まであるってんだから大したもんだ!

 

『35分とか、ハンパすぎ』


 確かに。『どうせならあと5分…40分まで…』 35分とは中途ハンパな。しっかし物事なんてそんなもんだよな。なにせ今日。人類史を以前以後に分ける今日。歴史の教科書に大きく刻まれるその時刻は 『2021年6月17日、13:22』


『売店ついてきゃよかった』


  チビは真っ暗な腕の中で思うと、上履きのカカトを踏み潰した。

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濁音天 ポロポロ五月雨 @PURUPURUCHAGAMA

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