五話 珈々に溺愛
「やったッス! 青葉の腕を掴んでくれるなんて……! 青葉、一生この手は洗わないッス!」
「手はちゃんと洗おうねぇ、青葉ちゃん」
「うぅぅ……痛い……どうして私がこんな目に……」
天真爛漫な笑顔の青葉を順に、珈々、ナナがカフェに入る。
結局、なかなか手を離さなかった青葉だったが、珈々がそれに触れると糸が解けたようにするりと青葉は手を離した。
その後に手を珈々に触ってくれていることを喜んで今に至る。
出会って数秒の事ながら、衝撃的なアクシデントにナナの警戒心は研ぎ澄まされていた。青葉の標的にならないよう、今も珈々の背中から手を抑えて、その様子を伺っている。
「……ナナさぁん、珈々先輩の近くをうろつくの、やめてもらって良いッスかぁ?」
「ヒイッ……! ごめんなさい! ごめんなさい!」
今まで有頂天だった青葉が急に声色を変え、態度が激変する。
どうにも青葉は珈々のことについて、ナナに嚙みつきたがる。ナナを目の敵のように、ジロリとにらみつける青葉を、珈々は指摘した。
「青葉ちゃん、ナナちゃんに意地悪しないのぉ」
「はいッス! 了解ッス!」
二つ返事で両諾し、敬礼した青葉は「珈々先輩から話してもらえたッスー!」とカフェの方へスキップで向かった。
「ごめんねぇ、ナナちゃん。あの子ぉ、昔からあんな子でぇ」
「は、はぁ……、珈々さん、やけに気に入られてますね」
「これでも結構ぉ、苦労してるのよぉ。あの子がこのカフェに夜来るのだってぇ、もう毎日の事なんだからぁ、一人の時間が恋しいわぁ」
「……なんでお店がやっている時間じゃなくて、わざわざ夜に来るんですかね?」
「なんかぁ、二人っきりの時間が欲しいらしくってねぇ、二回に一回くらいは追い返してるんだけどねぇ。無駄に根気強くてぇ、その場に居続けるもんだからぁ、困った子だわぁ」
「……私、めっぽう嫌われてるようなんですけど」
「そうねぇ、なんでかしらねぇ……性格上ぉ、相性が悪いのかしらねぇ?」
絶対に違う。ナナは確信していた。青葉と会って、まだ五分程しか経ってはいないが、青葉が珈々のことを異常なくらいに好いているのは一目瞭然だった。だから、青葉は珈々の近くにいるナナを嫉妬しているのだ。
面倒くさい立ち位置になってしまったと、ナナは自分の不幸を呪った。別に珈々に対しての恋心などナナは微塵も持ってはいなかった。
ただ近くにいるだけ、ただカフェで働いているというだけで、青葉はナナのことを敵視しているのだ。
私はただ……青葉さんと仲良くしたいだけなんだけどなぁ……。
白い髪に、赤いリボン。髪型はショートボブな青葉が、珈々には明るい笑顔、ナナには鬼のような表情を送り、カフェの方から珈々たちを覗いた。
「珈々せんぱーい、早く店の方に来てくださいッスよぉー」
「はいはーいぃ、ナナちゃん行きましょうぅ」
「はい……」
遂には青葉から自分の名が呼ばれなくなったと、ナナは気まずそうに珈々の後を追い、玄関からカフェへと入った。
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