三章
一話 迷走
ナナはいつもと変わらない道を歩き、いつも通りカフェへと向かっていた。
一向に香花との接し方に困る日々。最近やけに香花は上機嫌だった。今まで以上にお互いの距離を縮めようとするし、三十分に1回は話しを持ちかけられる。それ以前の香花が冷たい人間で合ったわけではないが、そのご機嫌ぶりは目に留まった。
それに対し、ナナは浮かない顔をしていた。無論、香花との会話が嫌いなわけではない。ただ、喉元に骨が引っかかったような居心地の悪さがナナの中にはあった。それが邪魔をして心から会話ができなかった。原因はもちろん、銭湯での失言にあった。
ナナは香花の「私も好きよ」という言葉に対して、未だ何も返してはいなかった。返事をした方が良いのか、自分自身が気にし過ぎているだけで香花は気にもしていないのではないか等々の問題が悩む程にナナを襲ったが、返事をしなければこの心境からは抜け出せないと決心した。だがどうしても……見つからなかった。香花が仮に告白のつもりで発言したにしても、友や家族という視点で発言したにしても、場の雰囲気をのんで言ったにしても、ナナはどう返事をしたらいいか分からなかった。ここ数日、ずっとそればかりを考えていた。でも考えれば考えるほど、抱えれば抱えるほど、答えからは遠ざかっていくような気がした。
ドサッ、ズザザー!
ナナは不注意に砂道から逸れていた。そうして雑草が生い茂る草むらに足を突っ込み、その先の斜面に重力を支配され、抵抗する術なく滑り落ちた。一言も声を上げることはなかった。
横たわった身体を起こすことなく、しばらく空を見上げ鳥の囀りを聞いた。脱力感といえばいいのか、そんな感覚が続き、起きる気力すら出なかった。そうしてナナは静かに泣いた。泥を払うこともせずに、汚れた両手で顔を抑えた。
誰かを傷つけたくないという一心で本音を隠し、抱えきれなくなって自傷した。その惨めさに涙した。
こんなことを香花が知ったら悲しむとナナは分かっていた。
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