第33話 パウロのポテンシャルは英雄レベルです

 ウサギ族のパウロに突然、村を救ってほしいとお願いされる俺たちは、少し困っていた。


「村を救ってほしいって、一体何があったんだよ」


「え、助けてくれんですか?」


「いや、それは……」


 俺はアルカディアに目線を向ける。


 こういうのはなるべく、アルカディアの選択に任せた委ねた方がいいだろう。だって俺が勝手に決めても、アルカディアのためにはならないわけだし、何事も決断する力は必要になる。それこそ英雄にとって特に必要な力だ。


「パウロちゃん、まずは話を聞かせて…」


 アルカディアはパウロに対して親身になり、話を聞く。


「あ,はい…」


「聞くのはいいが、まずは安全な場所に移動しよう。ここは危険だ」


 深い渓谷、いつ群れを成した魔物が現れるかわからない。今の俺たちなら対処はできるだろうが、人とは疲労する生き物だ。疲労はパフォーマンスを下げ、油断を作ってしまう。そういう意味でもできる限りは安全な場所の方がいい。


「確かに、真也のい言う通り。でも、この先ずっと渓谷が続いているだろうから」


「あ、それなら私にお任せください!!」


 自信満々に胸を張るパウロ。そんな姿を見て一言、「胸でけぇ〜〜」。すると死角から俺の頬に向かって、拳が降りかかる。


「ぶひゃ〜〜〜〜〜いてて、な、何をする!?」


「あ、ごめんなさい。アルカディアがやれって」


 うるっとした瞳をするアスティア。その隣で殺気を放つアルカディア。


「変なことを考える真也が悪いのよ」


 どうやら、俺の心は見透かされているようだった。アルカディアの前で変なことを考えるのはやめよう。


「なんだか、………仲がいいんですね!!」


 純粋無垢な笑顔で受け入れるパウロ。そんな姿が眩しく映った。


「べ、別に仲良くないから!!それより、どこか、安全な場所でもあるの?」


 アルカディアは疑問を投げかける。それも当然だ。だって俺たちはこの数時間歩いて、何も得られず、彷徨っていた。


「えっへん!!それこそ、私の力の出番です!!さぁ、皆さん!!私の背中へ乗ってください!!」


『え…』


 3人とも嫌な顔をパウロに向ける。


「ちょっ!!そんな冷たい顔を向けないでくださいよ!!」


「いや、急に背中に乗れって言われても…なぁ?」


「うん」


「いやです」


「ちょっと!!信じてくださいよ!!」


 プクッと頬を膨らませ、涙目になるパウロに可愛さを感じる俺は病気だろうか。


「まぁまぁ、冗談だ。信じるぞ、パウロ」


「真也さん……」

「パウロ」


「真也さん!」

「パウロ!」


「真也さん!!」

「パウロ!!」


「ちょっと!!その茶番はもういいから、行くよ!!」


「お、おう」


「アルカディア、怖い…」


 俺たち3人はパウロの背中にうまい具合に乗る。


「おい、大丈夫かよ」


「もはや、奇跡ね」


「すごいよ!!パウロ!!」


「えへへへ、褒めないでくださいよ…。じゃあ、切り替えて行きますよ!!」


 その瞬間、パウロの気配が一変する。全身から溢れる出る魔力。その容量はアルカディアを超えていた。

 

 やっぱり、間違いない、この子は…英雄の仲間にふさわしい人材だ。


 俺の心は歓喜した。運命を感じた。奇跡だと感じた。


「しっかりと捕まってください!!では……行きますよ!」


 前より少し低いトーンの声が響き渡る中、パウロが右足を踏み出す。全身の筋肉が軋みあう音が、プチっと切れた瞬間、一瞬、音速を超えた。


 視界を遮る抵抗する風で視界が閉ざされ、落ち着いた頃に目を開けると……。


「う、うそ…」


「すごい!!パウロ!!」


「えっへん!!」


「想像以上の、化け物だな」


 視界に広がっていたのは、渓谷を越えた先、真っ先に広がる森林が奥広く続いていた。


「よっとととと、ふぅ〜」


「それにしても本当にすごいね。一瞬で渓谷を越えちゃったよ」


「そうでしょう、そうでしょう!!」


「もしかしてこれが【固有スキル】?」


「う?全然違うよ?」


「え?」


 アルカディアは驚愕する。だが、パウロは全くもって嘘をついていない。単純な魔力と力だけで音速を超えたスピードを生み出している。間違いなく化け物、ポテンシャルだけ見れば、英雄レベルだ。だが……。


「いてて…」


「大丈夫か?」


「あ、はい。少し無理をしただけです」


「体がまだしっかりしていないのに、許容量を超える魔力を体に流し込むからだよ…そんなに無理すると、いずれ、体が壊れるぞ」


「みんなのためですから…これぐらい平気です!!」


「そういう問題じゃないんだよ、バカが」


 俺は軽くパウロの頭にチョップをかます。


「いて……す、すいません」


「ふん、さてパウロのおかげでここまで来れたんだ。恩は恩で返す。それが人の人情ってやつだ」


「そうだね」


「助けるぞ〜〜!!」


「み、皆さん!!うぅ…」


 ボロボロと涙を流すパウロに皆が温かく笑った。


「さぁ、案内しろパウロ、危機に迫っている村へ」


「はい!!」


 こうして俺たちは、渓谷を乗り越え、パウロの村へと向かった。



ーーーーーーーーーーーー


カクヨムコンテストがついに始まりました!!


応援のほどよろしくお願いします!!


面白い!!続きが気になるなど、思ったら、いいねや星をお願いします。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る