第49話 新たな恋敵と前代未聞のケーキカット
「うわああん! 天使にふさわしい白い衣に
身を包んだ君はほんの短い時間、
高い空を駆け巡ったばかりに神々の怒りを
招きその純粋で美しい魂は刹那のうちに
燃え尽きてしまったのだ!
火のように激しい情熱的な気性の君には
この世界は退屈だったのだろう。
愛する
生きていたくないよお!
誰かわしを殺してくれえ!」
マクシミリアンは残り少ない髪を
振り乱して泣きわめいていた。
そんな飼い主の姿を籠の中から見ていた小鳥は
うんざりした顔でアーモンドをつまんでいた。
「オーバーだな。白いシーツを麻縄で身体に巻き付けた男が
高い所で落雷に打たれて失神しただけじゃん」
弱気になったマクシミリアンの嘆く声を聞きつけて
押し寄せてきた暗殺者の群れをシャルロットが
瞬殺している間にエレオノール・デュプレが
大急ぎで雨戸を閉めた。
「もうやめてよ兄さん、
シャルロットの命令で尾行してきていた
巨大化した小鳥にキャッチされたため、天馬から落ちた
天使の身体は地面に激突することを間一髪で免れた
ものの、もう二日も意識不明状態であった。
「おお! どうしてわしではなく、
君が雷電に打たれてしまったのか!?
わしの犯した罪は君のより重いのに!」
「兄さんの背が彼より低いからだよ。
雷は高いところに落ちるの」
「こいつ今、わしをチビ呼ばわりしやがったな」
妹の一言にマクシミリアンが余計に打ちのめされているのを
見て腹を立てたエレオノールが
「あんたには先生のことを尊敬する心がないの!?」
と言おうとしたが、外から叫び声と激しくドアを叩く音がした。
「ここを開けなさい! 私は彼の初恋の女で
子供までいるのよ!?」
「先生に子供ですって!? そんなの噓に決まってる!」
頭に血が上ったエレオノールは真偽を確かめるべく、
すぐさま声の主のところにすっ飛んでいった。
「あんた誰? 私は彼の婚約者よ! さっさと帰りなさい!」
古の嫉妬深い王妃と同じ名前をもつ自称婚約者は
敵意むき出しで見知らぬ金髪の女をにらみつけた。
「こいつはアンリエット・ル・バに違いない!
いつの間にか復縁しやがって!」
相手が恋敵であると誤解したルイーズ・ジュレは負けじと
こぶしを振り上げてわめき散らした。
「いいえ、彼に会わせてくれるまでは絶対にここを動かないから!
忘れもしない、星がきれいなあの夜、彼は城跡で
私にロマンチックなプロポーズをしてくれて
私は迷わずはいと答えのに、彼は貧乏だったから、
私の父がむりやり自分の部下に嫁がせたのよ!
やっと夫のところから逃げ出してきたのに、
何であんたみたいな地味な女に
奪われなきゃならないわけ!?」
「何ですって!? 星空の下でプロポーズ!?
ちくしょう、うらやましい! 突然現れたこの女は
アイナス・デゾルティに違いない!」
マクシミリアンはアラスで弁護士として活躍していたころに
義理の従妹アイナス・デゾルティ
(母方の叔母の継娘)に好意を抱き、
プロポーズしたが彼女は心変わりして別な男を夫に選んだ。
「ブス! 死んじまえ! 今頃何しに来た!」
「キーッ! おまえなんかに彼を渡してたまるか!」
とうとう取っ組み合いの大喧嘩が始まった。
「二人とも馬鹿だなあ。お互いの彼氏の名前も
確かめないなんて。ねえリリー、止めなくていいの?」
小鳥に尋ねられたシャルロットはこう言い放った。
「いいよ、面倒くさい。このまま放っておいた方が
面白そうじゃん」
ところがその時、部屋の中にある移動用の魔法陣が
光を放ち、幼児が「もう面倒みれない」と書かれた
手紙を握りしめて姿を現した。あまりのわんぱくぶりに
辟易した祖母が送り返したのだ。
「ママをいじめるな!」
と言いながらルイーズ・ジュレの前に立ちはだかった
子供の顔を見たエレオノールは目を丸くした。
「あれっ、この子はサン・ジュストの子供!?
じゃあこの女は先生の彼女じゃないのね!」
天使が意識を取り戻さないので
自暴自棄になったマクシミリアンは
「ええい、むしゃくしゃする! 誰でも平等に死刑に処してやる!」
などと物騒なことを叫び出した。見
かねたシャルロットは
「兄さん、それなら移動用魔法陣で戦場に行きましょう」
と提案した。革命戦争にさっさと蹴りをつけようというのである。
皮肉なことにそれからほどなくしてようやく目を開けた
天使の前にいたのはジョセフ・ル・バであった。ルイーズ・ジュレを
追い出して枕元に侍っていたのである。
「ルイ、気が付いたのか!? 良かった!」
「おじさん、だあれ? ルイーズ! おれと結婚してくれ!
おれは君より年下で貧乏だけど、もう18歳だ!」
「何だって!? おまえは今年で26なのに、
何を言ってるんだ? あんなに愛し合った
おれを忘れるなんて!」
例の事故で記憶の一部を失った天使は
18歳以降のことを忘れてしまったのだ。
「はあい、私はここにいるわよ!」
恋人を抱きしめながら、マクシミリアンに勝てると
ほくそ笑んでいたルイーズだったが……。
「コラ! ルイ・アントワーヌを返せ!」
と言いながら敵兵の返り血を浴びたマクシミリアンが
魔法陣で帰ってきたとたん、天使は彼女を押しのけ
恋人(男)の胸に飛び込んだ。
「マクシム! ずっと会いたかったよ!」
天使は10歳の頃にタイムリープして助けてくれた
マクシミリアンの顔を覚えていたのだ。
「悔しい! あんたたち、いつ知り合ったのよ!」
ルイーズは泣きながら外に飛び出して行った。
「マクシミリアン・ロベスピエール! 決闘を申し込む!」
と叫んだル・バをシャルロットは魔法陣でむりやり
自宅に転送して命を救ったのだった。
魔法の薬で治療を受け、すっかり回復し
めかしこんだ天使はワインをがぶ飲みしながら
花嫁マクシミリアンのお色直しが終わるのを待っていた。小鳥が
「花婿さん、準備ができたよ!」
と叫んだ。ウェディングケーキの上に
白いドレスを着たマクシミリアンが
寝転んでいたが、よく見ると
全裸の身体に白い生クリームを
塗りたくってフリルドレスに見せかけていた。
「もうキモ過ぎてどこから突っ込んだら
いいかわからない」
小鳥は羽で目を覆ったが天使は大はしゃぎだった。
「マクシム、なんてかわいいの! 食べちゃいたい!」
身体に盛り付けられたイチゴごと、乳首までつままれた
マクシミリアンは歓びの声をあげた。
「いやん、なめまわさないで」
「仕方ないじゃない、こんなにたくさん
クリームがついてるんだから。おや、ここにも蜜が」
マクシミリアンは幸せな気持ちでいっぱいになった。
「性的に興奮しすぎると兄さんの
心臓に悪いかもしれないけど、
愛されて死ねるなら本望かもね」
シャルロットは二人の男の交わりをニヤニヤしながら
のぞき見ていたのだった。
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