第48話 天使の転落
妹のシャルロットやル・バの妻らにウェディングドレスの
着付けを手伝ってもらいながら、マクシミリアン・ロベスピエールは
釈然としない気持ちでいっぱいだった。
「ルイ・アントワーヌはどうしてわしを女にしたがるんだろうか……」
ブツブツひとりごとを呟いて上の空の童貞マクシミリアンは
女たちが部屋から出ていき、入れ違いにルイ・アントワーヌ・サン・ジュストが
入ってきたことにも気付かなかった。
「天使サン・ジュスト君、兄さんをよろしく。また泣かせたら感電だからね」
すでに電気ショックの苦痛を味わわされ散々な目にあっている
天使は背筋を伸ばして義妹になるシャルロットに約束した。
「はい! 命をかけてもマクシムを幸せにします!」
二人きりになったとたん、天使は興奮してゼエハア言いながら純白の
ウェディングドレスに身を包んだ恋人(男)を床に押し倒した。
ようやく我に返った童貞マクシミリアンは逃げ出そうともがいたが、
顔中にチュッチュッと口付けされているうちに目はうるみ、
手足の力が抜けていくのであった。
「マクシム、なんてかわいいの! 夜まで待ってられない!」
マイクロミニ丈のスカートをまくり上げ、脚を大きく開いた
童貞マクシミリアンを抱き上げると、すんなり自分自身を侵入させ
られるように狭くて固い洞窟を指や舌で柔らかくほぐすのだった。
「おれだけしか通れない秘密の通路に
たくさんタネをまくから、がんばって
おれたちの愛の結晶を宿そう」
「ハァン、そんなに激しく突かないで。真っ白なドレスに
シミがついたらどうしよう」
「大丈夫、魔法で消せるから。ああん、マクシムったら、
なんてすごい名器もちなの。締め付け具合がたまらない!」
童貞マクシミリアンのためらいを一蹴すると天使は
超高速で腰を動かして攻め続けるのであった。散々タネを
注ぎ込まれ、息も絶え絶えになりながらも
「わしは愛されている……」
と童貞マクシミリアンは幸福な気持ちでいっぱいになっていた。
「……しかしお色直しを六回もする
なんて、やりすぎじゃないかね?」
用意されていたのは、やたら丈が短く肌の露出が多いデザインの
透き通った生地のドレスばかりで
気が重いマクシミリアンは思わず本音をもらした。
一心不乱に恋人(男)を愛撫するのを
ようやくやめ、顔をあげた天使は
きっぱりとこう言い放った。
「いいや、君のすばらしさと愛らしい身体つきを皆に
見せつけるには六回でも十分ではない!
さあ、今日こそおれがマクシムの正当な伴侶だってことを
あの女にわからせてやるのだ!」
同性婚法案が通らなかったせいで入籍こそできないが、
挙式すれば恋敵であるエレオノール・デュプレをけん制できる
ことは確実であった。
「本当にわしでいいのか? もっと若くてイケメンな
男が現れたらわしは捨てられ……」
「何言っているんだ! 厚化粧なんてやめろ! 君の
知的で品のある素顔が隠されてしまうじゃないか!
ハンカチで拭いてやるからじっとしていろ」
容姿にコンプレックスがあるマクシミリアンは不安を払拭しようと
しつこく顔におしろいを塗りたくり、かえって無様になっていた。
天使は化粧を落として素顔に戻った
童貞マクシミリアンを抱きしめてほおずりしていた。
「愛してるよ、かわいいマクシム」
「わしもだよ、ルイ・アントワーヌ。もっと抱いてくれ」
愛し合う二人がまたしても合体しかけた時、邪魔が入った。
ドアを激しくノックして自分の名を呼ぶ秘書の声にイライラしながら
天使はとげとげしい声を出した。
「何の用だ!? 今日は休暇中のはずだが!?」
「すみません。ライン軍のピシュグリュ将軍からの使いの者が
至急お会いしたいとのことで外で待っています」
「でもおれはマクシムとけっこ……」
「君には議員としての仕事を果たす義務がある。さあ行っておいで。
わしは先に会場で待っているから気にするな」
何度も振り返りながらグズグズしていた天使を秘書がなかば
引きずっていった。
「あっ、思い出したぞ! あいつ、地下墓地カタコンブでわしが子どもの頃の
ルイ・アントワーヌを変態貴族の魔の手から救い出した時にわしに
石をぶつけてきやがったクソガキじゃないか! 後で辞めさせるように
言わなくっちゃ!」
婚礼が行われるのはシャルロットの自宅である質素なアパートの一室であった。
籠の鳥はあたりをキョロキョロ見回してこう言った。
「ゴージャスな花束もなし、華やかな飾り付けもなし、
今回は前回と打って変わって地味婚だ!」
「それでいいのよ、パンテオンなんて革命にとって重要な場所で
ど派手なパーティーを開いたせいでダントンたちに
目をつけられ結婚式は台無しにされるわ、粛清までされるわで
兄さんも懲りたのよ」
その反省から今回の式は身内だけを招いて
厳重警戒のもと極秘に行うことになったのである。
「それにしても花婿は遅いな。まさかすっぽかした?」
小鳥と同じく童貞マクシミリアンもヤキモキしていた。
「ルイ・アントワーヌはまだ来ない……もしや、
さっきのはわしをあざむいて逃げ出すための芝居だったのか!?」
「おじさん! スカート短すぎるんじゃない?」
いつの間にか会場に侵入してきたルイーズ・ジュレが産んだ
天使の二世はマクシミリアンのスカートをまくり上げ、
何もはいていないお尻を丸出しにしてしまった。
「パパをママから奪った敵め! 結婚式をメチャクチャに
してやるからな! 浣腸!」
生物学的父親以上に品のない
天使二世は童貞マクシミリアン
めがけて振り上げたフォークを
シャルロットにひったくられた。
「コラ、やめなさい、このクソガキ! 兄さんが
こんな目にあっているというのに天使君は
一体どこで何をしているの!?」
シャルロットは悪ガキを追いかけまわし、童貞は落胆のあまり、
テーブルに突っ伏して泣いていた。
さて秘書に誘い出されて部屋を出た途端に天使は
薬で眠らされ、馬車に詰め込まれて運ばれていた。
「あれ? おれはどうしてここに……? おまえはルイーズ・ジュレ!?」
自分の右手首が元カノの手首に縛りつけられていることに
気づいた天使は怖気をふるった。
「あなたは私の夫よ。一緒に田舎に行って暮らしましょ」
「いやだ! おれの夫つまはマクシムだけ……んんっ……!」
情熱的な口付けをされ、まんざらでもない天使は
豊満な肉体に与えられる快楽に抗うことなどできるはずもなく、
夜が更けていくのだった。
マクシミリアンは一睡もせず天使サン・ジュストの帰りを待ち続けた後で
恋敵ルイーズ・ジュレが置き去りにした天使二世を下宿先に連れ帰った。
「メガネのおじさん、えらい政治家のくせして
どうして狭くて汚いおうちに住んでいるの?
もしかしてそこの太ったおばちゃんとできてるとか?」
「何ですって!?」
デュプレ家の権力者であるデュプレ夫人はこぶしを振り上げたが
マクシミリアンは首を横に振って制した。
「オホホ、お説教は頭のいい先生にお任せしますわね」
と言って夫人は渋々引き下がったが、残念ながらマクシミリアンは
天使そっくりな子供の顔を見ると全く
怒ることができなかった。図々しい子供が
乱暴に暴れまわって何もかも破壊しつくし、
壁も床も落書きで埋め尽くしたころ、
シャルロットが訪ねてきて小言を言った。
「兄さん! 部屋中メチャクチャで足の踏み場もなくなってるよ。
ちゃんとしつけなきゃダメじゃない!」
「どうせ損するのは部屋の所有者であるデュプレ家だけどね」
と小鳥がツッコを入れた。
「いくら彼らが前世からの忠実な支援者でも、
ここまで汚くしたら弁償させられるよ。洗脳術で大人しく……」
「ダメだ! ルイ・アントワーヌの分身にそんな術は使えん!」
シャルロットは悩む兄を尻目に、お菓子を片手に
子供を転送用の魔法陣に誘導すると、ブレランクールにある
サン・ジュストの実家まで飛ばしてしまった。
「天使君の母親は1811年まで存命してるはずだから
そっちで何とかしてもらいましょ」
「な、なんて強引な! 実の孫だからといって
かわいがられるとは限らないじゃないか!」
「お人好しね。あの子の将来に責任もてないのにいつまでも
置いとけないでしょ。そんなことより、逃げ出したお婿さんを
探しに行くのが先じゃないの?」
「逃げ出した」という単語を聞いたとたん、童貞マクシミリアンの
心に激しい反発が生まれた。
「違う! ルイ・アントワーヌはわしを愛しているのに
無責任に遺棄したりするはずがない! きっと
あの元カノの罠にはまっているんだ!」
童貞は魔犬のブルンに乗って窓から飛び去った。
「ひいひい。一晩中求められて腰が痛い」
ルイーズ・ジュレを油断させるため、言いなりになって変態プレイに
つきあっていたサン・ジュストは居眠りしている彼女を残して
裸のまま逃げ出した。服を隠されていたのである。
「まったく……。散々な目に遭った。マクシムは
今頃怒っているだろうな」
よその家の物干し竿から盗んだシーツにくるまって野原を
歩いていた天使サン・ジュストは湖で背中に翼の生えた
馬の群れが水浴びしているところに出くわした。そのうちの一頭を
てなずけて飛び乗ると、たちまち空に舞い上がった。
「早く愛しい人のところに行かないと。おれが初めてこじ開けた
あのほっそりした小さな体、眼鏡の奥の思慮深い眼差し、
気品のある声……。早く帰ってヤリまくりたい」
空の上で顔を赤らめている天使の名前を呼ぶものがあった。
「ルイ・アントワーヌ! もしや君はこの世界に堕とされた
天使だったのか!? 天界に帰ってもわしを忘れないでくれ!」
相変わらず浮世離れしたことを言うと苦笑いしながら
天使はただ叫んだ。
「マクシム! 会いたかったよ!」
童貞をのせた魔犬と天使をのせた天馬はどんどん接近してもう少しで
抱きあえるくらいの距離まで近づいた。
突然、黒雲が湧いてきたかと思うと、雷が天使の身体に直撃し、
真っ逆さまに下に落ちていった。
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