第2話 王都近郊の森
店内に響き渡る悲鳴と物が壊れる音と殴打の音。
「やめて!」
それはものの数秒で治まった。
その店内では、
「やめて! って言ったでしょ!?」
「はい、すんません」
ボコボコにされた男達がショーケースの前に出てきたアリシアの前に並んで正座させられていた。
「もう! おじさん達が暴れるからお店の中がめちゃくちゃになっちゃったでしょ!」
「殆どアンタが暴れたせいじゃ……」
「何?」
「いや、何でもないです。そんなに強いなら冒険者にでもなればいいのに……」
「強いから冒険者になれとか超可愛いから女神になれとか、そういう問題じゃないの!」
「別に超可愛いとか言ってない……」
「私はお爺ちゃんから継いだお肉屋さんをやりたいの! わかった!?」
「俺様達は金さえ返してくれれば何でもいいんですけど……」
「半年以内にちゃんと全額100万返すからもう帰って!」
「は? 半年以内に100万? 額も期限も変わってんだけど」
「当たり前だよ! 体を売ったのにお店を壊したんだから、その分を差し引きしたの。だから、借用書の内容も変えてね。文句があるならぶつよ!?」
小さな握り拳を振り上げて見せたアリシアに大男は青ざめながら借用書の本紙と写しの金額と期限を書き直し、
「わかりました! では、返済の際はウチの事務所までお越し下さい! 失礼しました!」
子分を引き連れてそそくさと店を出た。
「まったくもう!」
借金取りが立ち去ったと思いきや、
「覚えてろ! ゴリラ娘! ブース、ブース!」
店の前で立ち止まって、アリシアへ向けて捨て台詞を吐いて逃げ帰って行った。
「誰がブスじゃー!」
怒り散らして外に出るも、そこにはもう借金取りの姿はなかった。
怒りの矛先が無くなったアリシアは諦めて店内へ戻り、改めて荒れた店内と商品がない状態を見て落ち着きを取り戻して考えた。
「……冒険者かぁ……よし! 決めた! 業者から仕入れれないなら自分で取りに行こう! 手間はかかるけどお金はかからないし! うんうん、名案!」
仕入れを全て自分1人でやると決めたアリシアは早速行動に出る。
手早く店内を片付け、靴下を履き、包丁を1本ずつホルスターに入れてそれにベルトを通して腰に巻き、いつものように共用井戸の水で腹ごしらえをして王都近郊にある森へ出発した。
陸や海、空にはモンスターが生息している。町や村がモンスターに襲われる危険はあるが、人々が平和に暮らせているのはモンスターを倒す存在がいるから。
それは冒険者だったり、傭兵や自警団だったり。
そういった職業があって彼らが食っていけるのは一般人ではモンスターに勝てないからだ。
訓練や鍛錬を積み、装備を施し、技を身に付け、経験を重ねて命を懸けてモンスターに立ち向かう。
そうしていても命を落とす者も少なくはない。しかし、代価を手に入れる為に彼らはモンスターと戦うのだ。
そして今、モンスターが巣食う森にメイド服姿の肉屋店主アリシアが足を踏み入れた。
普通の人間から見ればあまりに無謀。モンスターの餌になりに行くようにしか見えない。
だが、アリシアに一般常識が通用するはずがない。だって、彼女は身体能力も非常識なのだから。
「普通のお肉は無理だから、とりあえずモンスターのお肉からと思って森に来たけど、う〜ん……ここに居るモンスターって美味しいのかな〜?」
通常の肉である牛・豚・鳥などの家畜系の動物肉は畜産農家から買わなければ殆ど手に入らない。ジビエ系の動物肉は狩りで手に入れられるのだが、王都近郊の小さな森程度ではモンスターが捕食していて滅多に手に入らないのだ。
アリシアは美味しそうなモンスターを探して森の中をウロウロ。
森に入って30分もしないうちにモンスターらしき後ろ姿を発見した。
「あれは何てモンスターかな? ま、いっか。とりあえず狩っちゃお」
身を低くして忍び足で近付き、ホルスターから刃渡り25センチの牛刀を抜いて目標の背後から刃を一直線に突き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます