ミートマスター
六花
第0話 肉屋の店主
「お肉屋さんなのに、お肉を売れない人はだ〜れだ」
昼間なのに薄暗く小さな店の狭い店内でショーケースに突っ伏して項垂れながら1人でクイズの問題を出す少女。1人なのだから当然、回答者も自分。
「……借金まみれでお肉を仕入れれないお肉屋さんの店主にして世界1の美少女、アリシア・ファルスちゃん。……ピンポーン! 大正解!」
世界1の美少女と戯言を言う19歳にして肉屋の店主であるアリシアの出した答えは店の事にだけ関しては大正解だった。
カラル大陸東のイーズ王国。大陸の中では2番目に国土が広く人の行き来も多い国の王都。
人が多ければ当然、それを目当てとした商業施設や露天商もひしめき合い王都を賑わす。
しかし、アリシアの店である精肉店『ミートマスター』は全く賑わっていなかった。
ミートマスターは祖父が始めてアリシアの代までで80年続いた店。元々は王宮にも卸す程の繁盛している店だったが、アリシアに代替わりしてから僅か2年で見る見る客が減り、今あるのは多額の借金と客も肉も無い店舗だけ。
両親は馬車の事故で他界、アリシアに店を託した祖父は老衰で他界。
悲惨な境遇なのにも関わらずアリシアは店を継いで2年間、遊び惚けていた。
まさに今の状況は自業自得。
しかし、そんな遊び惚けていたアリシアも流石に現状をどうにか打開しないとマズイと思っていた。
「はぁ……1人クイズとかしてる場合じゃないよね〜。何とかしないと……」
顔を上げて頬杖をつき溜め息を零す。
「いっその事、借金を踏み倒して……」
途中まで言って頬杖を辞めて両頬をパンッパンッと叩き、首を横に振る。
「ダメ、ダメ! そんな事したら悪評が立って、もっとお客さんが来なくなっちゃう!」
踏み倒す際の借金取りとのいざこざより、アリシアは悪評が立つ事を嫌がった。遊び惚けていたクセに。
「どうにかして借金を返して、昔みたいにお店を繁盛させて……あれ? お店を繁盛させて借金を返すだっけ? ……どっちでもいいや。とにかくお店の経営を立て直して、いつかお爺ちゃんを超えるお肉屋さんになるんだ! そしてお金持ちになって……むふふ」
経緯と目的はともあれ、アリシアはやっと肉屋の経営にやる気を出した。
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