第10話 立ちはだかる壁
集まっていた人が、御手洗君のために道を開ける。学園の王子様には、みんな逆らえない。
近づいてくる彼に、私は緊張で手に力が入る。そんな私を宥めるために、陽祐君が指でそっと叩いてきた。小さな動きだったのに、体から力が抜ける。
いつの間にか、随分と頼りにしてしまっていた。心を許している自分に驚く。
私の恐怖に気づいてくれた陽祐君が、御手洗君から庇ってくれるように間に立ち塞がった。大きな背中が、すっぽりと隠してくれた。御手洗君の姿が見えなくなり、恐怖が多少は和らぐ。それでも気は抜けない。
「なんの用だ」
いつも通り、低く冷たい声。御手洗君にも通常運転なんだ。彼のキラキラオーラも通じない人がいる。今日はそれが知れただけでも、大収穫だった。
「そんなに警戒しないでほしいな。別に喧嘩するつもりは無いんだ」
威嚇ぎみの相手にも、爽やかに対処している。周りから見れば、御手洗君の方が大人なんだろう。でも私にとっては、存在が恐怖でしかなかった。
目の前にある制服の裾を掴み、息を殺した。真正面から相手をするほど、まだ私は強くない。任せきりにしないで、自分で何とかするべきだと分かっていても、体が動いてくれない。トラウマが思っていたよりも根深いみたいだ。辛い。
「こっちは別に用なんてない。邪魔だ」
周囲の評価なんてどうでもいいとばかりに、陽祐君の態度は変わらない。むしろ警戒していて、本当に今から喧嘩でもしそうだ。
喧嘩をしたら、それこそ大変な騒ぎになる。さすがに良くないと、私は掴んでいる服の裾を強く引っ張った。
「どうした、陽那?」
こちらを見る顔は、先ほど威嚇していた時とは違って優しさだけで構成されている。作っているのではない。その顔で見られると、心拍数が上がる。きっと、恋愛をしようと言った条件のせいだ。
「喧嘩は、駄目だよ?」
ドキドキしながらも、ちゃんと注意をした。向こうがどういうつもりか知らないけど、もう関わりたくない。トラブルなんてもってのほかだ。
この場から逃げ出したい。震える手を押さえていると、手が重ねられた。
「大丈夫だ。心配ない」
私が、何に一番怖がっているのか知らないはずなのに、まるで全てお見通しみたいだ。言葉だけで勇気がもらえる。
でも、御手洗君の顔は見られなかった。簡単にトラウマは消えない。
「体調が良くないんだ。用があっても、今はやめろ」
「えっと、そうみたいだね。僕も約束をしていなかったから今はやめておくけど、出来れば早めに話がしたいんだ。用件は分かっているよね、高橋さん」
陽祐君のおかげで今は諦めてくれたけど、完全には諦めてくれなかった。名前まで知られている。身構えていなかったから、敏感に反応してしまった。
無関係ではいさせてもらえない。私のことなんて、放っておいてほしいのに。
これが運命だというのなら、お断りだった。
顔を見ずに、軽く頭を下げる。これで、とりあえずは無視していない。
「……陽祐君、行こう」
「ああ、行くぞ」
繋がれた手を引かれて、私は御手洗君を視界に入れずに立ち去った。後ろから視線を感じたけど、振り返ることはなかった。
♢♢♢
衝撃が薄れなくて、下を向いたまま彼に連れて行かれる。
まだ何も言ってこない。聞かれると答えに困るから、気遣いがありがたかった。
裏庭に着くと、すぐに手が離れていく。無くなった体温に、寂しさが胸をよぎる。
そんなことを考えている場合じゃないと、自分に言い聞かせた。
「大丈夫だったか?」
まっさきに私の心配をしてくれる。優しい。みんなが誤解しているのが信じられない。でも私だけしか知らないのは、優越感のような嬉しさがあった。
「陽祐君のおかげで、大丈夫だったよ」
「それなら良かった。でも、あいつなんだろ。相性100パーセントのやつ」
「さすがに分かるよね……有名だから」
「まあ。俺でも知ってるぐらいには有名だな」
呆れたような表情をした彼は、まだ私を心配している。それぐらい、顔色が悪くなっている自覚はあった。助けてもらえなかったら、あの場で絶対に倒れていた。
「……あいつに、なにかされたのか?」
「陽祐君が心配しているようなことは、何もないよ。だから、そんなに怒らないで」
「でも、それならなんで」
「私の問題だから言えない。……ごめん」
ここまで拒否反応を起こしているのは、乱暴でもされたからと考えたみたいで、殺気を放ち出した彼を止める。
怖がっている理由を聞かれたけど、言えるわけがなかった。言っても、信じてもらえる話じゃない。頭がおかしい人だと思われたくなくて、説明を拒否した。
そうすれば、陽祐君の顔が歪む。
「謝らなくていい。俺も無理に聞き出そうとして悪かった。話したくないこともあるよな。ただ……」
そこで言葉を区切ると、私の方に手を伸ばしてきた。ふわりと優しく頭に手が置かれる。軽くポンポンと叩かれ、彼は優しく微笑みかけてくれた。
「俺はいつでも味方だから。頼りにしてくれ」
「……ありがとう」
ここまで私に味方をしてくれる彼に、全てを話せない苦しさを感じながらも、なんとか笑い返した。色々な感情が混じりあって、どうしようもなく辛かった。
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