第78話 戦線、停滞す

 使い番からの知らせが届いた。予想通り、敵方も兵を二部隊に分けたようだ。ここまでは想定通りである。


 俺達と正対しているのが中村豊重が率いている部隊で、智頭郡へ向かった武田高信へ向かったのは山田家治の率いる部隊だ。兵数は中村が七百、山田が五百である。


 これはどちらも良い勝負になりそうだ。しかしおかしい。敵方は試算よりも兵が少ない。


 急いで虎の子の別動隊を動かすよう使い番を送る。こちらの考えが読まれているか、それとも先んじて攻め込んで来ようという腹積もりか。


 まだ余力がある筈。恐らくは五百程兵を待機させていると見える。もし、待機させていないのであれば数の暴力で押し切ってこちらの勝ちだし、させていても膠着状態になるだけだ。


「ご注進にございます! 高草郡へ向かった部隊を迎撃するため吉岡春斎が兵を五百程率いて移動との由!」 

「相分かった」


 やはりか。どうやら敵方に俺の策は見破られていたようだ。吉岡春斎は高草郡の丸山城主だ。これはやられたな。次の策を考えねば。


 折角、俺が一郡ずつ丁寧に剝がしていこうと思っていたのに、吉岡春斎のせいで台無しである。問題は誰が見破ったか、だ。やはり吉岡春斎だろうか。


 吉岡春斎といえば戦上手だと記憶している。いや、それは息子の方だったか。何か誰かの馬印を奪った凄い人だった筈だ。


 さて、どうするか。まず思いつくのは尼子だ。彼らに背後を突いてもらうのを思いつくが、尼子を動かすための餌が無い。そもそも余力が無いだろう。正面には強大な毛利がいるのだから。


 尼子を動かして因幡国を落としても、尼子が滅んでしまったら意味が無い。尼子は対毛利の盾なのだ。もう少し踏ん張ってもらわないといけない。


 確かにこれは膠着してしかるべしだろう。井伊直親を責めることはできない。俺が兵を五百も率いて自軍の数の方が多い状況なのにこの体たらくなのだ。


 俺に戦の才能は無いらしい。ただ、絶対に正攻法の、由緒ある正々堂々とした戦はしない。有利になる状況を作るのだ。誇りや意地など犬にでも食わせておけ。


 勝つことが本にて候なのだ。昔の偉い人がそう言っていた。いや、今の偉い人か。朝倉の金吾殿に一目会ってみたかった。


 このままでは将も兵も疲弊するばかりである。人心が離れかねない。中弛みする。やるなら短期で勝負を付けなければ。でも、どうしよう。


 そこまで考えて俺は考えるのを放棄して建設中の砦内に寝転ぶ。そしてうんうんと唸っている内に考えるのを放棄する、してしまうのであった。

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