制服姿の少女がいた。ただ、靴を履いていなかった。わたしは彼女に、靴はどこへやったんだいと尋ねたが、はぐれたのと彼女は答えた。

「あたしと靴は、はぐれてしまったんだわ」

 わたしは、その少女の靴を探しに行こうとした。しかし、引き止められた。理由を問うと、彼女はすでに場所はわかっているのと言った。場所は、教会の裏手に広がる共同墓地だった。少女は墓石に刻まれた文字を読んでいって、ここよ、とちょうど中央にあたる墓石を示した。

「あたしの靴は、ここにあるのよ」

「どうして?」

「奪われたの」

「このひとに?」

「うん」と、彼女はうなずいた。

 わたしは墓を掘り返した。濃厚な土の匂いがあたりを充満し、服が汚れた。少女は汚れなかった。

 中の棺をスコップで叩き割ると、中に少女の亡骸が眠っていた。制服姿の少女が。わたしは、彼女の足に目を向けた。

「ごらん、ちゃんとあるよ」

 そう言いながら、顔をあげた。

 すでに、少女はいなかった。

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