季節は冬

 季節は過ぎ、木々の枝葉は枯れ落ちてしまった。最近は都内でも気温一桁も良く見る。

 近頃は、怪盗レイナもそこそこの知名度を誇っている。吉原邸の事件以降、レイナは数件の盗みを成功させている。博物館所蔵の冠、有名芸能人の高級ネックレス、資産家がコレクションしている名画……などなど。半面、その全てで刑事・樫本かしもとかえでは歯痒い思いをしている。

「怪盗レイナさんは次はどこを狙うの?」

「さあ、どこだろうね~」

 駅から徒歩5分、新しめのマンションの一室である。家事をしている楓に、午前10時になってようやく起きてきた玲奈れなが適当に答える。

いつきくんは知ってるんじゃない?」

 楓に急に話を振られて、樹は飲んでいたホットミルクを溢しそうになっていた。

「えっ?えっと……知らないです!」

「本当?……正直に答えてくれたら、お姉さんがイイコトしてあげるよ」

「小声でも聞こえてるからな!中学生に色仕掛けするんじゃないの!」

 吉原邸の事件の後から、三宅みやけいつき樫本かしもとかえでみさき玲奈れなと一緒に住むようになっていた。以前は怪盗レイナのアジトに寝泊まりしていたのだが、突如現れた花牟礼はなむれもんという人物が不審なことを言うので、安全のために玲奈と一緒に住むことになった。紋は樹や楓と玲奈が生活していることを把握しているようだが、玲奈が紋と接触して敵意はなさそうだと判断したし、引っ越すとかしても無駄だろうからこのままである。結局、その接触以降玲奈は紋と会えていない。会いに行っていないという方が正しいだろうか。

「次に何するか決まってないのは本当だなあ。……怪盗レイナが考えてることは知らないけどね」

「その設定、もう無理じゃない?」

「設定って言うな!」

「でもそういう話なら、こういうのはどう?」

 楓はタンスから一枚のチラシを取り出して、玲奈に投げてきた。

「……温泉?」

「旅行とかしたいと思ってさ。樹くんもそろそろ冬休みでしょ?」

「旅行……ねえ」

 玲奈は暫くチラシを眺めていたが、そのうち机に叩きつけて、こう言った。

「いいんじゃない?」

 楓はニヤリと笑った。チラシには温泉旅館が載っていたが、玲奈の視線はその隅の方に向かっていた。「平家の残した財宝のウワサ」という小さなコラムである。

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