2 いのち短し、恋せよ乙男
とある休日の昼下がり。人の寄りつかない寂れた公園に男が1人。そいつが何やらぶつぶつ言っている
「ふむふむ... 水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3gか...あっやべ、測り家に忘れた。まあ、目分量でいいか」
そしてその男に近づく女が1人
「カイさーん、頼まれた石灰買ってきましたよー
うわ、凄い散らかってる」
その男カイの周りには物が所狭しと並び、水の入った瓶から、得体の知れない粉が入った袋と様々な物が置いてある。そして1番目を引くのは黒いペンキで描かれた魔法陣である
「あの、急に呼び出されて何するか分かってないんですけど、一体何するつもりなんですか?魔法陣なんか描いちゃって」
「ん?ああ、人体錬成しようと思って」
そう言った瞬間もの凄い力で服の襟を掴まれ激しく揺さぶれる
「バカあああああああ!!あんたバカなんですか!?それともどうしようもない程のアホなんですか!?人体錬成なんて禁忌中の禁忌ですよ!?それにあんた魔術書の1つも持ってないでしょ!?」
腐ってもレイは魔法使い、何も知らないアホにふざけたことを言われれば怒るのも必然である。
「おい、そう興奮するな。レイ
確かに俺は魔術書を持っていないがちゃんと参考にした本はある」
そう言った後、男は堂々と一冊の本を掲げる。
その本の表紙には鋼鉄の錬金術師という文字が...
「お前それ!マンガじゃねえか!!
あなた本当に救い難いアホですね!?
その本参考にしたんだったら錬成した後どうなったかも見てますよね!?」
「大丈夫だ。俺はあの兄弟達のようなヘマはしない」
「どっから湧いてくるんですかその自信は!?しかもあなた魔法適正全然無かったですよね!?」
「大丈夫だ、なんとかなる」
「あなたって人は!はあ...」
怒り疲れてちょっと冷静になった女レイがカイに尋ねる
「そもそも何で人体錬成なんかしようと思ったんですか?」
「えーと、この前グラと飲んでた時にまだ彼女は居ないのかと煽られてな
その時は一発殴って終わったのだが、クリスマスも近いしでその後彼女を作ろうと思ったんだ。
だが自分はそういう事に疎く、まず何をすれば良いかすら分からず悩んでいた。その時に天啓が降りて来たんだ!
彼女を作れないなら、創っちゃえばいいさと」
「りっ、理由がしょうもなさすぎる...」
あまりの理由に頭を抱えるレイであった
そんなレイを尻目にカイはさっきとは別の本をパラパラと捲りながら呟く
「はあ、なるほど。砂糖とスパイスも入れるか
素敵な何かっていうのは分からないな...あっ確か家に年代物の酒があったな。それ入れてみるか」
「いちいちネタが古い!それ伝わる人絶対いませんよ!?」
「さっきから騒がしいぞ
俺も忙しいんだ、手伝わないなら帰ってくれ」
そう言いカイはまた作業へと戻った。
呆れと驚きで忘れていたがこの男がしようとしているのは禁忌である、レイは魔法を学んでいた1人としてそれを止めなければならない。そのことを思い出しレイはカイへ慌ててしがみつく
「だからダメですってえええ!!人体錬成はホントにやっちゃいけないんですってえええ!!」
「お願いだから離してくれレイっ!!
今まではなんとか余裕そうに見せていたがもうかなりギリギリなんだ!俺に残された道はこれしかないんだ!!」
そう言いながら引き剥がそうと暴れるカイ
だがレイもここで引き下がる訳にはいかず必死に喰らい下がる
「分かりました!私が手伝いますから!あなたが彼女作るの手伝いますから!!」
そう言われピタッと動きを止めるカイ
「本当か...?」
「本当です!私が手伝いますから禁忌を犯すなんてバカな事はやめてください!」
「本当の本当?」
「本当の本当です」
レイの真剣さに当てられてかカイも考えを改める
「分かった。レイがそこまで言うなら人体錬成は一旦やめにしよう」
「一旦じゃなく永久ににやめてほしいですが今は良しとします。
ではカイさんはここにあるやつ片付けといて下さい、私はその間に使えそうな情報集めてきます」
「ああ、分かった」
数十分後、片付けがちょうど終わる頃レイは何枚かのチラシを持って戻って来た
「カイさーん、色々集めて来ましたよー」
「おお!ちょうどこっちも終わったとこだ」
レイは手に持ってるチラシを広げて話し始める
「これらは今日行われる街コンのチラシです」
「すまん、そもそも街コンってなんだ?」
「街コンっていうのはカクカクシカジカ...」
「こういう時小説って便利だよなあ...
なるほど分かった!これでついに俺にも彼女が!」
「私もサポートしますし、きっとうまくいきますよ」
それをカイは手で制す
「レイ、手出しは無用だぞ
ここまでしてもらったんだ、後は俺でやるさ」
「分かりました。
では私は遠くから見てますね。頑張ってください」
「ああ!やってやるさ!!」
場所を移り街コン主催会場へやって来た2人
会場には参加者と思われる人が大勢来ていて大変盛り上がっている
「凄いなこれは!美人ばっかだぞ!!」
「凄い数の人ですね。ここまでいるとは予想外でした」
「自分も同感だ!ん?時間らしい
じゃあ行ってくるぜ!」
そう言ってカイは勇んで会場へと入っていた
「じゃあ、私はそこの店で時間潰しますか...」
レイは近くのカフェに入りカフェオレとケーキを頼む。トレーに乗ったそれらを受け取った後、店内の窓際の席を取り外を眺めながら口をつけ始める。
「さて、あの人は頑張っているかな」
カイは結構頑張っているようだった。臆せずしきりに相手に話しかけるのがこちらからも見える。
「あれなら大丈夫そうですね」
2時間後
「ダメだった...連絡先一つもなし...」
「え!?別に悪くなさそうだったのに!」
「最初はみんな良さげな反応なんだが、話してる途中で急に態度が悪くなって...」
「ま、まあそんなこともありますよ!
次行きましょ!次!」
カイ達は知らなかったがもう1人のパーティーメンバーグラは女の敵として既に街の女性のほとんどに知れ渡っており、一部では懸賞金を賭けてるとこもあるとかないとか...
カイはそれを知らず相手に自分のパーティーの話をするので結果相手は距離を置こうと素っ気なくなるという...
どこまでもグラに苦しめられるカイであった。
2件目にて
「ダメだった」
3件目にて
「無理だ」
4件目にて
「ヴォエ!」
ラスト5件目
最後の力を振り絞り相手に連絡先を聞くがあっさり断られてしまう。そしてそこで無慈悲にも鳴る街コン終了のお知らせ
街コン参加者達はそれぞれここで出会ったパートナー達と街にしけ込んでいき、さっきまでの賑わいはどこへやら、人は一気に少なくなる。後に残っているのは撤収をするスタッフと立ち尽くす男1人、その男にレイは恐る恐る近づいていく
「あ、あのカイさん...?」
「いかん、雨が降って来たな」
「雨なんて降って...」
「いや、雨だよ」
その時、男の頰を伝う一筋の水滴。
それだけでこの男の今日の結果が胸の内がひしひしと伝わってくる
なんとも雑な伏線回収である
「...グスッ...俺は帰る
付き合わせて悪かったな」
そう言ってカイは1人とぼとぼと歩き出す
いつもバカみたいに騒ぎ、根拠の無い自信だけは人一倍、笑いながら胸を張って歩く男の姿はそこに無く、代わりに勝負に負けた1人の負け犬が居るだけであった。その背は酷く哀れでいつもより小さく見える。
このまま限りなく小さくなりぽっと消えて見えなくなりそうな、そんな錯覚をレイは覚えた。そしてこのままで帰すのはいけないと思い咄嗟に呼び止める
「カっカイさん!飲みに行きませんか!!
ほ、ほら今日の反省会的な!?」
「いや、俺はこれから家に帰って首を吊る予定が...」
「奢りますから!なんでも頼んでいいですから!守銭奴のこの私がここまで言ってるんですよ!?
それで来ないなんて男が廃りますよ!!」
かなり無理があったが勢いに押されてかカイは首を縦に振る、レイはそれを見ると男の腕を取り力強くぐんぐん引っ張っていく。
「さあ!行きますよ!!
この前美味しい店を見つけたんです!」
数時間後、酒場がひしめき合う大通りにて
「ダハハハハハ!レイ見てみろ!地面が回ってるぞ!!」
「すごい!すごいです!!
いつからここは遊園地になったんですか!!」
2人はベロベロに酔っていた。カイはさっきまで首を吊ろうと考えていたのが嘘に思えるほどの上機嫌である。
そんなカイを見てレイは酒であまり回っていない頭で考える
「(やっぱりこの人は笑っていた方が良い。
ていうか彼女を作ろうとした時なんで自分に話しかけてくれなかったんだろう...私は別に...)」
「オロロロロロロロロロロロ」
1人耽るレイの前で当の本人はマーライオンの如く吐瀉物を撒き散らしていた。それを見てレイの頭が一気に酔いから醒める。
「(うわあ...今のは気の迷いですね。お酒で私どうかしてました)
カイさーん大丈夫ですかー」
「かなりやばい...オロロロロロロ」
再び凄い勢いで吐き始めるカイ
「私水買って来ますね!」
「あ、ああ...頼む...うぇ」
水を買いに行きながらレイは考える。
ああ、最初はお使いをするだけだったのにどうしてもこうなってしまったんだろう...
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