このエルフさんは、俺の嫁!〜歳の差うん百年でも添い遂げます〜

火猫

俺の初恋は、ある森の中だった

「あっちぃ…」


また暑い夏がやって来た…夏休みと共に。


7月下旬。


夏の暑さの影響で皮膚炎や気管支炎になりがちな俺は、暑さが比較的和らぐ祖父の家に毎年行っている。


今日も祖父に連れられて、キノコ狩りに山へ入った…そんなある日のことだ。


子供の俺はキノコ狩りに夢中になりすぎて、気づいた時には完全に迷子になっていた。


「お爺ちゃん!お爺ちゃーん!!」


シカが歩き、熊や猪の気配が当たり前のように存在する森。

ガサガサと音がするたびに震えた。


そんな最中…夕暮れが迫り、空気が冷え始めた頃、ようやく見つけたのが——

大きな木の根元に空いた、獣が使っていたらしいウロだった。


「……ここで、一晩……」


夏であっても、山中の夜は冷え込む。


震えながらウロの中に入り込み、膝を抱えて夜をやり過ごす。


怖くて眠れず、ぼんやりと闇を見つめていた、そんな時だった。


「――誰かいるのー?」


鈴の鳴るような、澄んだ声。


驚いて、でも不思議と怖くなくて。

少しだけ、ウロから顔を出した瞬間——


そこにいたのは、女神だった。


金色の長い髪。

月明かりを映すエメラルドの瞳。

整った鼻梁と、淡いピンク色の唇。


あまりに綺麗で、言葉を忘れてしまった。


「あら……」


彼女は俺を見て、ふわりと微笑んだ。


「怖くないよー。お話、しましょ?」


その笑顔で——

俺は、恋に落ちたと自覚した。


10歳の夏だった。


「私の名前は、ハナ・エルフリーデ」

そう名乗った彼女に、俺も名を告げる。


「風間……鉄です」


「かざま、てつ?名前はどれ?」


「……テツ」


「テツ……テツね!」


彼女は嬉しそうに繰り返し俺の名前を呟く。


「可愛い名前ね!」


そう言って、俺の額に——


チュッ


軽くキスをした。


「っ!?」


心臓が、冗談抜きでもげるかと思った。

顔が熱くて、息ができなくて、世界がぐらぐら揺れた。


俺の火照る頬を眺めている薄いグリーンの瞳には気付かずに。


それから朝日が昇るまで、二人で話し続けた。

森のこと、星のこと、自分のこと。

特に俺の話を、彼女は楽しそうに聞いてくれた。


そして——


「テツ!!」


祖父の必死な声が聞こえた瞬間、俺一人だったが、安心と緊張が一気に抜けて、俺は意識を失った。



それから時は流れ。


高校一年になり、通学していたある日。


俺は突然、光に包まれた。


気づけば、豪華な王城。

魔法陣の中央に立つ俺と、もう一人。


同級生の——天馬疾風。


「ハヤテ様、貴方が勇者様です!」


そう告げられたのは、疾風の方だった。


俺はというと。


「……一般人ですね」


金貨三枚を手渡され、城の外へ放り出された。


——笑えない。


呆然としながら、何となく足が向いたのは、近くの森だった。


理由は分からない。

ただ、懐かしい匂いがした。


そして。


「やあ!あの時のテツじゃないかー」


聞き覚えのある声。


振り向いた先にいたのは——


金色の髪、エメラルドの瞳。

六年前と、まったく変わらない姿の彼女。


「……ハナ?」


「今はハル・エルフリーデだけどね!」


笑顔で手を振る彼女に、俺は言葉を失った。


「うんうん、大きくなったねー」

「いや、もう16歳だからね。君は…変わらないね」


「そりゃそうさ。ウチはエルフだもん」


「……六年も経ってるのに」


「でも良かったよー」


ハルは俺の額を指さして、にやりと笑う。


「マーキング、しといてさー」


「……は?」


「ほら、あの時のキス」


——マーキング、だったのか…ペット扱いだ。


「……初恋を返せ」


ガッカリする俺を見て、ハルは楽しそうに笑った。


「でもね?テツが変なのに見つからないようにしたんだからさー。喜んで欲しいなー?」


一歩近づき、覗き込むように言う。


「お気に入りだったからだもん」


心臓が、また変な音を立てた。


「じゃ、行こっかー」


「行くって、どこへ」


「エルフの国!」


次の瞬間、視界が歪み——


俺は、有無を言わさず転移させられた。


こうして俺は。

勇者でもないのに。

初恋のエルフさんに回収されて。

エルフの国へ連れて行かれることになった。


——どうやら俺の人生。

最初からマーキング済みだったらしい。


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