いざ事務所へ

第30話

次の日。宝之華とモデル事務所へ。

こういう仕事は華やかであるが、上下関係がとても大変そうだ。でも、宝之華は前の仕事で慣れているから大丈夫だろう。


事務所へ着くと、そこには昨日お会いしたきのこ頭の藤原さんが待っていた。


「おはようございますー」


もう昼なのにそんな挨拶を宝之華はした。


「佐賀さん。早速で悪いのですが、ここで翼さんと会ってもらっていいですか?」


おはようは違いますと、注意されない。

昨日の話では、宝之華が先に事務所で挨拶を済ませた後、じゃなかっただろうか?


「え?話ちがくないですか?」


「すみません。翼さんがどうしてもということで」


「ならいいですけどー?」


なぜか上から目線。失礼な宝之華である。

藤原さんはさっさと事務所の中に入っていってしまった。いきなり昨日話していた権力のあるカメラマンと話すなんて。少し緊張してしまう。

考えている暇もなく、すぐに誰かがやってきた。長身で優しそうな表情の男性だ。この方が?


「あなたが佐賀宝之華さん?」


「はい!はじめまして」


「で、こちらが旦那さん?」


「はい、躑躅零と申します」


「よろしく。私はカメラマンの美空翼みそらつばさです」


やはりこの方で間違いないようだ。イメージと全く違う。


「本題に入りますが、結婚していることは内密にするということで、よろしいでしょうか?」


「はい、なんかそんなことになってるんですけど、本当にそうしたほうがいいんですか?」


「ぜひ、そうしましょう。ここには未婚男性がおりまして、若い子がいると仕事がはかどるんです。恋のパワーをなめちゃいけませんよ」


笑顔の翼さん、怖い。


「でも、だましちゃ可哀想じゃないですか?」


「いいんです」


なんと恐ろしい。宝之華をえさに仕事の効率をアップさせるということか。


「その前に、まず私は相手にされないと思うんですけど…」


「されますよ。彼らは飢えてるので」


「え、そんなに?」


「ということで、よろしいでしょうか?旦那様?」


「は、はい」


断ることはできない。そんな威圧的な雰囲気。


「それで、会社について聞きたいことがあるとか?」


「いえ、特には。お手数をおかけしました。私はこれにて失礼します」


ここに長居することはできない。


「零さんもう帰るの?」


というよりも、帰ることしかできない。


宝之華を置いてきてしまったが、大丈夫だろうか?いや、もしだめだとしても、僕が仕事を頑張ればよいことだ。


ふと、携帯を見てみると着信が。しかも何件もある、と思ったら全て実くんだった。これは連絡しないとダメなのか?

とりあえず、かけてみた。


「はーい!零くん!」


「あ、実くん。何か用?」


「ひどいよー!着いたら連絡ちょうだいって言ってたのに!」


「ごめん、忙しくて」


「ねーねー、俺そっちに遊びに行きたいからさ、住所教えて!」


「今はわからないよ。歩いているので」


「もー!じゃあ後で連絡してね?」


「え、うん」


「まったねー!」


実くんの電話は一方的で、真奈さんのことを話すこともできなかった。しまったな。話しておけば、ちょっとは怖気づいたと思うのに。

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