億万長者になれる職業

日本はそこそこ良い国だ。

金がない貧乏な人間でも、運と努力と才能によって大金を得ることができる可能性がある。


ゲームやサッカーなんかを含めたスポーツ選手

オリジナルの世界観を創造する漫画家

ネタの面白さと継続性が評価されるYouTuber

そして、命を賭けて金を稼ぐダンジョン探索者



ダンジョンが何なのかは未だにわかっていない。

ダンジョンという呼称が相応しいのかも含めてわからない。

それは地球上に突然現れた。

詳しく探すと月にも出現していた。

ダンジョンの中は異空間とも呼ぶべき不思議な場所に繋がっている。

そこには、地球には存在しない生物が存在する。

生物とは言うが、その定義を満たしいるか解明されていない為、一般にはモンスターやら魔物やら怪物やら好き勝手呼ばれる。

最初の頃は国が軍を派遣した。

日本も自衛隊を出動させ調査した。

ダンジョンの中では不思議なことが起こる。

因果や空間を無視して武器を奪われたり、不思議な表示が自分の前だけに現れたりする。

既存の兵器では無力だった。

そして、新しい兵器が誕生する。

それはある種の人間兵器。超能力者ともいえる存在だ。

ダンジョンは人を怪物に作り替える。

公には一般人の侵入を禁止し、各国がダンジョンを管理した。

そして、モンスターがダンジョンから解き放たれた。

ダンジョンには間引きが必要だったのだ。

今では世界中の全ての人間が無理やりダンジョンに入れられる。

強い能力を手に入れた運が良い者は、ダンジョン探索を強制される代わりに様々な支援や優遇を受ける。

まあ、強制というよりはお願いや取引と言い換えた方が相応しいのかもしれないが。


強い能力でないとしても、ダンジョンに入ることはできる。

ダンジョンは未だに何なのかわかっていない。

もしも、その秘密の一端でも持ち帰れば多額の報酬が手に入る。

また、ダンジョンに入った瞬間に得る特殊な力以外にも、ダンジョンを探索することで更なる力を得た事例が存在する。

何の才能が自分でも、もしかしたら······。そう思い、願い、ダンジョンを探索する者は多い。

それに比例して行方不明者数、死傷者数も多い。


大抵の奴はモンスターを倒して死骸を売り捌く。

あるいは、ダンジョンにあるアイテムを売り捌く。

弱いモンスターやたくさん見つかるアイテムなんかは値段も低くなる。

未知なものであるほど価値は高くなる。

それでも、そんな価値の低い死骸やアイテムでも、日銭くらいにはなる。

ロマンを求めて、金を求めて、力を求めてダンジョンに入っても、大半はうだつの上がらない人生だ。

大金を稼げるのは上澄みだけ。

ダンジョンは他の職業と違って運の要素が強いが、その強い能力を手に入れられる法則が見つかれば、この職業も他と同じ夢も希望もない人間社会を支える為のものになる。


一部では配信なんてものもあるが、特殊な能力かアイテムでダンジョンの外に繋げられる奴にしかできない。

録画もできるが、人気なのはネタが面白いやつと強いやつだ。

弱いやつが投稿しても地味な絵面に視聴者は集まらない。

そもそも、ダンジョンに安全なところなんてない。

ダンジョンの外も安全とは言い難いが、ダンジョンでは突然別の場所に転移することもあるし、透明になれるモンスターが襲いかかってくることもある。幻覚で惑わすこともある。人間にも注意する必要がある。

撮影にリソースを割けるのは、カメラ目線を気にすることができるのは、ある程度強いやつだけだ。


結局のところ稼げるの強いやつ。

力を求めるにも強いやつが更に強くなりやすい。

それだけならダンジョンに入る人間は少なくなるだけだ。



「あった」


男が見つけたのはアイテムだ。

明らかに人間が持てるサイズのナイフだ。

人間が使う文字を表示として映すことも含めて、ダンジョンには人間に都合が良すぎる側面もある。

ダンジョンにはまだまだ謎が多い。


ナイフを握ると、なんとなく使い方が分かった。

ナイフを岩に向ける。

ナイフから光線が放たれ、岩は跡形もなく消え去った。

ナイフに似ているだけでナイフではないのだろう。


国が運営している施設で売ると300万円で買い取ってくれた。


今日生き残ったのだから明日も大丈夫だろう。

もっと凄いアイテムが見つかるかもしれない。

そうやってダンジョンに人は入り浸る。

ダンジョンに多くの人が入るようになってから、賑わいが静まる時間はない。

誰もが金、力、名声を求め、ダンジョンは相応しい試練で答えた。




〈終〉

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