第3話 日常

「ん〜」


大きな伸びをした。昨日はあまりにも実感のない一日だった。自分には関係ないと思っていた、関係があってはいけないと思っていたはずの人と話した。いや、話したと言えるのだろうか。自分から話すこともほとんど無かったし話が続くことも無かった。

それでも黒羽さんはつまらないの一言も言わず、自分の家にいた。とても不思議で自分の気持ちが分からなくなる。

そのせいであまり眠りにつくことができなかった。


「今日も一日頑張りましょう!」


元気にアナウンサーの人の声が耳に入る。


「行ってきます。」


誰も居ない家に声をかける。


今日も自転車に乗って学校に向かう。昨日はあんなに色々な事が考えることが出来たのに今は何も考えられない。


何も考える間もなく学校につく。

靴を履き替えて教室に上がる。


ガラガラ


教室のドアを開ける。自分の席に着き一限目の授業の準備をする。


「あ、教科書忘れた。」


めんどくさい。わざわざ職員室まで行かないといけない。席を立つ。


「希ちゃん!ちょっといい?」


ん?なんだ?と思って振り返るとクラスの学級委員の女の子だ。


「職員室に行くの?」

「うん。」

「ついでにこのノート持って行ってくれない?」

「いいけどなんで私が職員室に行くってわかったの?」

「だって授業の準備してたでしょ?そのあと席立ってから面白いくらいにめんどくさそうな顔するんだもん。」


笑いながら言わなくても。そんなに顔に出てたのかな。


教室の前の教卓に集められているノートを手に教室を出る。

階段を降り職員室に行く。


「ねぇ」


階段の途中で声をかけられて上を見上げるような形で振り向く。

黒羽さんだ。


「何してるの?」

「見てわからない?ノート運んでるの。」

「親切だね。」

「そんなことないよ。気分。」


そう言いながら隣までくる。


「何?」

「ん?暇だから一緒に行こうかと思って。」

「だから何でよ。」

「え、嫌だった?」

「そういうわけじゃないけどさ、私みたいな人といるの黒羽さんが見られたくないかなって。」

「私から行こうって言ってるんだからそんなこと思うわけないじゃん。」

「そう。」

「半分持つよ。」

「いいよそんな。」

「いいから。」


私がさっきあんなことをいったからだろうか。強めな口調で言われる。

そんなことを会話しているうちに職員室につく。


「ありがとう。」

「うん。」


用事を済ませて職員室を出ると黒羽さんがまだいた。


「教室戻っててよかったのに。」

「何でよ。ここまで来たのに一人で戻るはないでしょ。」

「そっか。」


黒羽さんは私のことを友達と思っているのだろうか。私は思っていない。住む世界が違うから。私とは何もかもが違うはずだから。この親切もみんなに向けられているものはずだ。


私の心の奥深くに生まれた感情。その感情を押し殺し、「友達」と思わないように黒羽さんからの優しさを拒絶する。


階段を上がったところで別れ、教室に戻る。


あんなことを思いたくなかったのに。嫌気がさして、自分の気持ちにイライラする。

最悪だ。そんな気持ちを一日抱えながら学校を終える。


帰りの靴箱でまた声をかけられる。


「御子神。」


この声は。


「あのさ。その。」

「何。」

「また一緒に帰らない?」

「駅まで?」

「いや。」

「え、私の家に来るってこと?」

「あ、遊びにいきたいなって!ね、そんな感じ。」

「何をそんなに慌てることがあるの。別にいいけど。」

「ほんと!?」

「うん。」


これは困った。昨日の今日でまた一緒になることがあるとは。


黒羽さんと会って自分が抱えていたイライラが消えていくような気がする。


昨日から黒羽さんに出会ってから自分の日常が変わっていく。

それが怖くて仕方ない。自分の心が変わって行くのが怖い。


この不安な気持ちが顔に出ないか心配になりながら

黒羽さんと二人で学校の正門をくぐり、通りなれた道を帰る。



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雨時々君 @Mammga

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