第17話 魔法地図
お客様をおもてなしするための準備は、お母様の指導を受けながら整えていった。
やはり、辺境伯爵夫人のお母様からは、学べることが多い。
それらは充実した日々となり、自分の成長した成果が試されるから、キャルム様と再会するその日を楽しみにしていた。
「ユーリア。到着されたぞ」
豪華さよりも機動力を重視した馬車が屋敷の前に到着した。
皇族の方だと知ってから初めてお会いするので、より緊張する。
馬車から降りてきたキャルム様は、真っ先に私に微笑みかけてきた。
「心待ちにしておりました。無事に到着されて何よりです。グリーン卿」
キャルム様は、留学するにあたって、グリーン伯爵の名で通っていたそうだ。
なので、ルニース王国内ではグリーン卿として過ごされる。
「僕も、貴女にお会いできるのを心待ちにしていました」
女性なら誰もが心を動かされてしまいそうな微笑みを向けられると、勘違いしたくなるのも頷ける。
「ハーフアップの髪型もよくお似合いです」
短かった髪は、今は長く伸ばしている。
憧れていた髪型だったから、お世辞でもそこを褒めてもらえて嬉しかった。
「御当主に挨拶をしてきますね。ライネ嬢とは、また後ほどお会いしたいと思います」
「はい」
ひとまず、お兄様とキャルム様は当主の執務室へと向かった。
私が侍女達とお茶の準備をしていると、二人揃って戻ってこられたのは、それから30分ほどしてだった。
「お茶の準備もできていますが、お疲れでしたら客間に御案内します」
長旅で疲れているだろうから、客間で休んでもらうつもりで案内しようと思っていた。
「心遣いに感謝します。ですが、その前に話したいことがあります。ヴィクトル、ちょっといいかな?ライネ嬢も。二人に見てもらいたいものがあります」
「では、応接間に案内しますね」
キャルム様は人払いも頼み、私達が使用する部屋には私とお兄様とキャルム様しか残っていない。
どんな話をされるのかと緊張していた。
テーブルを囲んで手近なソファーにそれぞれが腰掛けると、キャルム様はテーブルに、羊皮紙らしきものでできた大きな地図を広げた。
「今から話す事は、唐突で混乱させてしまうと思います。これは、僕が皇帝から預かってきたものです。劣化防止のために、地図の時間経過を止める魔法がかけられています。情報は、十年に一度更新されます」
文字がハッキリと読み取れるし、紙も新品同様に見える。
帝国の魔法技術にはとても驚かされていた。
「この魔法地図によると、ライネ領の隣にある無の森と呼ばれている場所には、ルファレットとドラバールという名の二つの国があったはずなのです。この地図が最後に更新されたのは、八年前。少なくとも、八年前まではこの二つの国が存在していた」
キャルム様が話したことは、確かに唐突で混乱を招くものだった。
二つの国があの森に存在するなど、そんなはずはない。そんな痕跡は何もない。
私の記憶にすらないのに。
八年前なら、私は九歳くらいだ。
何か覚えていることがあってもおかしくはないのに。
たとえ流行病などで国民全てが絶えてしまったとしても、全てが廃墟となって森に埋もれてしまったにしても、何かしらの痕跡くらいはあるはずだ。
「僕は、父からこの件について調査するように命じられました。帝国内でも、この二つの国の存在を覚えているものはいないのです。そんな奇妙なことはあり得ません。僕は留学中に、七年前の不可解な大規模遠征の話を知りました。何か関係があるのではないでしょうか?」
地図を見つめるお兄様は、険しい表情をしていた。
「すでに帝国側からも、無の森には調査が入っています。ライネ辺境伯爵家の準備が整い次第、こちら側からも調査を始めたいです。これは魔物に対処するためにもなると思います」
混乱する頭は、キャルム様の話を必死に聞いていた。
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