第3話 親睦、辛抱、バーベキューン(ミクル視点)

「ねえ、ケセラさん。四人の親睦も兼ねて、このようなイベントはいかがでしょうか?」


 いつもの教室内で過ごす昼休み、ケセラさんと仲良く、お昼ご飯を食べ終えた私は、ケセラさんに、手作りのパンフのコピー用紙を手渡しました。


 ケセラさん、これを見て、是非とも驚いて下さい。

 このパンフは先週の休日を返上して、一人で作った計画書なんですよ。 


「ケセラさん、こんな私を褒めてちぎって欲しいです!」

「はあっ、何を褒めちぎるん?」


 パンフを手に持ったケセラさんが、不思議そうに私を見つめている。


「しっ、しまったー! 私としたことが、迂闊うかつでした。つい嬉しくて、心の声が漏れ出してしまいましたー!?」

「えっ、嬉しい心がどうかしたん? まあ、ミクルが自意識過剰のとこは薄々知ってんけど……でもミクルが、まさかエクセルを使えたとはね」


 ケセラが、ミクルの頭を優しく撫でて、彼女を褒めまくる。

 そこでミクルの脳内にある、導火線に火がついた!


「はい。まだ無免許の身ですが、どんな道だって、バリバリの操作とテクニックで、街中を一周できるはずです!」

「……了解。起動源はバイオエタノール」


 メロンパンを口にくわえたジーラが、ミクルの話の波に自慢げに乗ってくる。


「あのさ、気持ちは分かるけど、無免許の運転も駄目やし、脳内のも吹かさんでくれる? それからジーラも、ガチでボケをかまさんで」

「はい。ケセラさんは、オートバイの二人乗りを好むのですね」

「……一年以上、孤独に乗りこなすのが条件」


 私たちの話の掛け合いに、額に手をやって、目を瞑るケセラさん。

 春と言っても、まだ朝晩は冷えますからね。 

 風邪気味で、頭でも痛いのでしょうか?


「……いい? 二人とも黙って聞いてや。エクセルというのはPC作業のことやで」

「ピー、シー?」

「……空を舞う自転車」


 私の頭の中で、満月の夜空を自転車でかける、マスコット的な宇宙人の姿が思い起こされる。  


「それは映画の話やろー!! いいから黙って、ウチの話を聞いてやー!!」

「嫌ですわね。ケセラちゃんは、情緒不安定なうえにヒステリーで……」


 食堂に行っていたリンカも会話に加わり、ミクルたちの評論を否定するケセラに、本心を伝える。


「リンカ、地獄へと、レッツご招待してやろーか……?」

「おほほっ、熱くない程度にお願いしますわ」

「ほお、それはミカンを湯船に浮かべた温泉四国巡りかいな……?」


 ケセラさんが、物凄くひきつった笑顔で、リンカさんを問いつめる。


「二人とも、喧嘩は止めて下さい」

「誰のせいやと思ってんのや!」

「……どうどう」

 

 ただいまジーラさんが人参を持って、ケセラさんを餌付けしています。

 さて、どんな競走馬に育つのでしょうね。


「ウチは馬でもないわー!!」


 ケセラさんが頭を抱えて、具合の悪そうな顔をする。

 やっぱり、今日は調子が悪いのでしょうか?


「ああ、もうあんたたちの相手をしてると、どっと疲れるわ。それよりもミクル、このイベントのことなんやけど」

「はい、何か問題でもありますか?」


 私はパンフを突きつけたケセラさんの質問に、耳を傾ける。


 はい、お友達のお悩み相談なら任せて下さい!

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「ここのお花見を兼ねてのバーべキューって書いてあるのは分かるけど、その隣に描いている、この犬みたいなのと、隣のおっちゃんのイラストは何なん?」

「はい。ここ掘れ、ワンワンっていうでしょ」

「ああ、なーる。犬の宝探しと、桜吹雪をかけてんのね。隣のおっちゃんは、桜を咲かせる花咲かじいさんなんね」

「はい。豆を投げて、鬼を撃退することに生涯を捧げた、おじいさんという役割ですけどね」

「そりゃ、節分の豆まきやー!」


 ケセラさんが、私に正しい、花咲かおじいさんの話を説明してくれました。

 鬼の面を被った人間なんて、一人も居ないことを……。


 それからここからは、裏話になりますが、何でも、おじいさんは初夏に船乗りを目指してまして、自宅のプールに浮かべたゴムボートの上に、茹でた卵を乗せて、ナイフとフォークで美味しくいただいたふりをしたそうです。


 プールの底に、卵の殻や食べかすが散らかったら、それこそ掃除が大変ですからね。


「……という昔話」

「ジーラ、話のねつは止めてくれん?」

「……パオーン」


 ケセラがジーラに例の人参を突き付けて、宣戦布告をする。

 ジーラも象の鳴き声をして、ノリノリになるかと思えば、案外冷静で、人参の先っぽを少しだけかじる……のを、リンカが慌てて止めに入る。


「ジーラ、その人参を洗わずに、そのまま生で食べるのもお腹を壊すから駄目だけど、その人参で世界も滅ぼすのもやめてくれない?」

「……了解、リンカ海上保安庁」

「そうそう、例え、水のない陸路でも、心の平常運転は大事よ」


 ジーラちゃんがリンカちゃんの腕により、大人しく引き下がり、私たちは今度の休日にバーべキューを楽しむことにしました。


 戦乱の火蓋になりかけた噂の人参も、炭火でじっくり焼いて、四人で美味しくいただきましたよ。

 バーベだけに、人参の身もホカホカで、心もでした。

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