第2話 波乱、騒動、コロッケとパニクり(ミクル視点)

 私ことミクルは、ケセラさんを、もっと魅力的な女性にしたいと思っています。


『何なの、この子は急に変なことを言い出して? 頭がおかしな子なのか?』という人もいるかも知れませんが、私はお菓子では、モンブランが好きで……じゃなくて、ケセラさんは、とても素敵な女性です。


 私は、そんなケセラさんが素敵な人と巡り合い、彼女に幸せになってもらえばと思い、ケセラさんが購買に行った昼休みに、最近、友達になったジーラさんと、リンカさんとの机通しを引っ付けて、三人で、この話をしたのですが……。


「あははっ、何なの、この子は。急に変なことを言い出してw」


 ミクルの相談に乗ったリンカが、お腹を抱えて笑い出す。


「笑い事じゃないですよ。私はケセラさんの幸せを願っていてですね……」

「願い事なら、流れ星に祈ったらどう。可愛いミクルちゃんの頼みなら、火星人だって聞いてくれるよ」


 リンカはミクルの肩を叩き、ありきたりではない答えを返す。


「……ボソッ……異星人と全面戦争」

「そうか、ジーラ。武器は持ったか?」

「……ホッカイロなら数個」

「今の季節は春だけに、それは長期戦な予感ですな、ジーラ閣下」

「……カッカッカ」


 リンカの聖戦に対して、変な笑い方をするジーラ。

 ミクルはジーラが悪の閣下だったことを、今まで知らなかった。


「ジーラさんって、有名人だったのですね。あの……手持ちはハンカチしかありませんが、是非、サインをいただけませんか?」

「……火星人設定でも?」

「はい。どんな相手でも、いつかは分かり合えると私は思うのです」


 ミクルのワールドワイドな言葉に、リンカが椅子から下りて、床へと泣き崩れる。


「ううっ。ミクルちゃん、めっちゃいい子じゃない。じゃあジーラ、サインをしてあげなよ!」

「……自分、鉛筆しかない」

「はあ?」


 ジーラが、ビニール製の筆箱に入った鉛筆を取り出して、私たちに見せる。

 HB、B 、2B 、3B、4B……ちなみに、この高校は美術系の学校ではない……。


「ジーラ、あれほど言ったでしょ! 学校という戦場には、サインペンは必要不可欠なのよ!」

「リンカさん、落ち着いて下さい。私は平和的に物事を解決したいのです」

「フッ、命拾いしたね。ミクルちゃんに感謝しなよ、ジーラ閣下」

「……カッカッカ」

「己はふざけてるのかー‼」


 ジーラに飛びかかろうとした猛獣を、両手を広げて遮るミクル。


「まあまあ、ジーラさんも悪気はないでしょうし、落ち着いて下さい」

「……そうだね、ちょっと熱くなりすぎたね。ジーラ、後でリンカのサインペン貸すから」


 リンカが冷静になり、イチゴミルクの入ったペットボトルで喉を潤す。


「それで……どうしたのよ? 確かにリンカは恋占いは得意だけど、同性同士の恋愛は占ったことはないわよ? 何で今さら?」

「何でと言われましても、こんな季節ですし、勉学を共に頑張れる好きな人ができて、幸せになれたら良いと……」

「ミクルちゃん……健気だね。よし、このリンカが腕を奮って、占ってさしあげよう」

「ありがとうございます」


 リンカが鞄からトランプを出し、カードを切って、自身の机に五枚並べる。


「さあ、ミクルちゃん。カードは表にはせず、好きなカードを一枚だけ取って、リンカだけに見せてみて」

「あっ、はいっ!」


 ミクルが引いたカードを、リンカに見せる。


「こっ、これは……波乱の予感だわ……」


 リンカの方の表側には、にやけた笑いを浮かべ、悪魔の尻尾を伸ばした不気味な猫のイラストが描かれていた。

 それをミクルの方へと向けると、ミクルは信じられない顔つきをしていた。


「大騒動が起きるジョーカーときたか。ミクルちゃん、残念だけど、ケセラちゃんの存在は……」

「そんな、ケセラさん……」


 ミクルの顔が、みるみる青ざめていく。


「──ウチがどうかしたん?」

『おわー!?』


 ミクルとリンカが突然の来訪者に、驚きの声を上げる。


「なんやね、二人揃って、ウチをお化けみたいに? ウチは元気モリモリやから健康そのものやし、例え、売店に配送のトラックが突っ込んできても、余裕よゆうで避けれる反射神経はあるで‼」


 ケセラはニカッと白い歯を見せながら、親指を立てる。


「でもケセラさんの身に、何か騒動が起きるって聞きました! 私、ケセラさんに何かあったのかと‼」

「騒動? 確かにあったな」

「ケセラさん!?」


 ミクルが心配する中、ケセラが片手に提げていたビニール袋を、ミクルに見せる。


「運動部の集団に先を越されてさ、おにぎりが全部売り切れていてさ、しゃーなくパンにしたんだけど、これまたカロリーの高い惣菜パンしかなくてねー。ウチ、丸々と太っちゃうわ」


 ケセラが舌を可愛く出し、自分のお腹を優しく触りながら、少し困った顔をしてみせる。


「……まさかの米

「しかも自体が、ケセラちゃんじゃなく、だったとはね」


 ジーラの鋭い反応に、リンカはホッと一息をつく。


「ケセラちゃんは幸せ者ね。ミクルちゃんがいてくれて。まあ、当の本人は気づいてないみたいだけど」

「……天然で鈍感」

「まあ、それが、ミクルちゃんの良いところなのかもね」


 ほのぼのとしたミクルとケセラを見ながら。本音を口に出すリンカ。 


『キーンコーンー、カーンコーン♪』


 そこへ、昼休みが終わるチャイムが鳴り響く。


「ヤベー、どうしよ。飯食べる時間ないやん!?」


 ケセラが大慌てで、コロッケパンをかじり出す。


「そうきたかい!」


 ケセラさんの騒動は、リンカさんの占い通り、身近な所で起きたのでした……。

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