第9話 最低なカミングアウト
俺達はあと一歩で街から出られるという所で衛兵に止められていた。
「えっと、どうして通行出来ないんですか?」
そう尋ねると衛兵は、心持ち暗い表情で、
「この近辺にアラクニドっていう凶悪殺人鬼が出没してるらしくてな。【旅人の祠】に向かったらしい数人の若者が惨殺体で発見されたんだ。死体を見つけた騎士団の男衆曰く『喉が痛そうだった』ってよ。全く、酷い事する奴も居たもんだ。……と言う訳で今は通してやりたくても安全が確保されるまで通してやることは出来ないんだ」
と言った。
昨晩は昨晩で奴隷商人に鉢合わせしたし、今のところ毎日犯罪とバッティングしている形だ。治安が悪すぎる。
「その、アラクニドってどんな奴なんですか?」
「聞いた話によればソイツはどうやら小柄な奴らしい。使ってる武器は短剣に糸。今回の死体にも糸で拘束された形跡が残ってたから今回の犯人って断定されたんだ。糸で動けなくなったところを短剣で喉をグサリが奴の常套手段って話だ」
「えげつないね……」
アラクニドの殺害方法にジャックも体を震わせながら顔を青くした。
「じゃあ戻るか。お話ありがとうございます」
「気にすんな。これも仕事の内だ」
斯くして俺達は来た道を引き返すこととなってしまった。
「にしても、やっぱり異世界って普通に生きるだけでも相当難易度が高いんだな。……人攫いに殺人鬼にモンスターもいるって色々ヤバ過ぎだろ」
来た道を引き返しながらそう呟くと叱るような口調で俺の中の同居人が『この程度で高難度とは片腹痛い』と口を挟んで来た。
『お前はそれに加えて願いを叶える為に苦難の道を選んだ。そうである以上お前が乗り越えるべき苦難は他者のそれとは一線を画する。この程度で高難度などと言っていてどうする』
「……だな。ちょっと失言だった。折角得られたチャンスだもんな」
『だが、実際のところ願いを叶えるチャンスよりもお前の体質の方が余程希少だがな』
「体質って確か、【欠片】の適性の事か?」
『然り、常人が取り込めば宿主の自我を侵食する劇物を受容出来る特異性。それは願いを叶える権利よりも断然希少だ。余程数奇な星の下に生まれたらしい』
「――なんて?」
何か、サラっととんでもないカミングアウトをされた気がする。
そう言えば、転移寸前にジャックが悪影響が出るとか何とか言っていたような……。
『知らなかったか? 【欠片】とは【魔王】の力の断片にして六等分された【魔王】の人格そのもの。故に常人が一つでも取り込めば自我の容量を大幅に超過し、元の人格は残らず消え去り暴走する。だが、今のところ超過の気配は無い。ここまで潤沢な空き容量があるのは俺としても全くの想定外だ』
「マジかよ!?」
【欠片】を取り込んで二重人格になったからそれが【欠片】の悪影響だと思っていた。けど、実際の悪影響は人格破壊の挙句暴走とかっておかしいだろ!? なんて物を持たせてんだ!!
「清人、いきなり大声出してどうかしたのかな?」
そんなやり取りをしているとジャックがにゅうっと近付いてきた。
「あ、いや、また【魔王】がな」
そう言うと「ああ」と納得の表情を浮かべた。
さっきの話を聞いてジャックに八つ当たりしたい衝動が芽生えたが、ジャックがこの手の情報を持っていないのは今朝がた確認済み。本当に悪いのは秘匿気質と説明を端折って転移を敢行したグリムだと自分に言い聞かせて衝動をググっと抑える。
「【魔王】ってよく分からないよね。神様の最終兵器だって説明の割には【魔王】を自称してたりするし。それに【魔王】を自称する割に根は善良そうだし……口はちょっと悪いけど」
「そう言えば、【欠片】についての情報が皆無なのは朝に確認したけど【魔王】については何か情報持って無いのか?」
「それを持ってたら先に話してるよ」とジャックは肩を竦める。
「そもそも僕はあくまで道案人だからね。僕に分かるのは出現した【欠片】の位置情報に、その土地の詳細なマップに、名産品とかその土地の特徴とか有名なお店に名所。あとモンスターと植物や食物についての知識が少々って感じかな」
「それだけ基本スペック高いのに何で一番大事な情報が無いんだよ……」
「基本高スペックなのが僕らの種族としての特性だし、相手は最高機密事項だからね。でも、情報不足を嘆いてるだけじゃ情報は増えないかな。幸い時間は出来た訳だし有効活用しなくちゃ」
「と言っても情報の伝手とかあるのか?」
そう言うとジャックはクックックと笑みを浮かべるとどや顔で、
「古今東西、情報収集の基本と言ったら図書館!! 好都合なことに【機工都市】にはこの大陸最大の図書館があるかな!! 最大だよ!! 最大!!」
「お、おう」
余りの熱量に思わず生返事を返す。
ジャック、テンションというかキャラ違い過ぎない?
「それじゃあ、レッツ読書タイムかな!!」
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