第17話 エルメアーナのアイデア


 エルメアーナはジューネスティーン達が来る前に店のテーブルに座り、それぞれの石板を見比べていた。

 エルメアーナは、昨日は大して意見を出せてなかった事もあり、ジューネスティーン達が今日も来る前に石板を見ながら一人で考えた事を再確認して、今日は自分の意見を述べられるようにする為だ。


 ジューネスティーンの考えていたボールを丸めるための円盤は、渦巻き状の円盤と中心から放射状に溝を掘った円盤を回転させて、お互いの溝の中にボールを通して丸めていくというものだったが、それには放射状の溝だと、回転するボールが立ち上がってくる時、放射状の溝はボールの回転方向とは垂直に動いている事もあり、溝の淵が転がってくるボールの歪な部分に当たる可能性があり、放射状の溝は出っ張り部分が左右に動いて丸めるには不向きになる事を思いついていた。

 この円盤は歪なボールを綺麗な真球にするためにあるので、投入した時のボールは歪な形をしている事から放射状の円盤では転がるのでは無く出っ張りが逃げる事になるが、同心円の溝なら出っ張り部分が逃げたとしても溝の一番深い部分を通過して転がらなければならないので真円度は高くなるはずである。

 また、円盤の加工を行うなら渦巻き状の溝を掘るのは技術的な問題がある。

 精度1000分の1を目指すのであれば、円盤の加工も難しいものより簡単にできるものを用意したほうが良い。

 螺旋の溝を掘るのは手作業になるが、同心円上の溝なら円盤を回転させ削れば精度を出す事も可能となる。

 機械的に加工した方が手作業より精度は上がり作業時間も減る。

 ジュエルイアンが絡んでいるなら開発に掛かる時間は可能な限り短縮できた方が良いし、ジューネスティーンのパワードスーツ開発期限にも間に合わせる事が可能になる。

 また、加工に掛かる時間が短縮できるなら、新たな大きさのベアリングも早く量産する事も可能となる。

 提出用のパワードスーツを完成させ動作確認した際に問題が生じたとして新たなベアリングを作る事になっても、ジュエルイアンから新たな仕様のベアリングを依頼されたとしても開発期間が短くなるのは有難い。

 冒険者なら、出来栄えが良くなるとなれば待てる事が多いだろうが、商人というのは時間を気にする。

 投資した金額を回収する必要があるので、商品の販売が早くなるに越した事はない。

 エルメアーナは、父であり師でもあるカインクムの仕事をする姿を見て知っており、ましてや恩の有る事を考えれば、ジューネスティーンのアイデアを更に練り直したのだ。

 そして、渦巻きと放射状の溝の円盤ではなく、同心円状の溝を固定用の円盤と回転する円盤の両方に作ることで、円盤の生産に対する時間も短縮を考えた。

 ボールは、常に丸いトンネルの中を転がることになるので、引っ掛かるための角が円盤に無くなる事、放射状の円盤ではボールの出っ張り部分が逃げるように転がるが、同心円状に配置した溝の中ならボールの出っ張りは逃げても必ずトンネルの中で転がりながら回る事になる。

 今日のディスカッションで自分のアイデアを納得させられるように、テーブルに並べている石板を見つつ検討をしていたのだ。


 エルメアーナは、並べた石板を見つつ自分の考えに満足していると、店と自宅をつなぐ扉からアイカユラが入ってきた。

「ねえ、エルメアーナ。お昼だから早く食べてね。それに、ジュネス達が来るのは、学校が終わってからなのだからまだまだ先でしょ!」

 言われて、自分のアイデアに興奮して朝から検討をしていたというより、自分のアイデアに酔って昼食の時間を忘れた事に気が付いた。

 テーブルには、昨日の夕飯の後に閃いた自分のアイデアを描いた石板と、そのアイデアの有効性についての説明用の石板を用意して、自分のアイデアをジューネスティーン達に説明する為の用意を朝食の後から行っていた。

「ああ、アイカか。分かった。今、食べに行く」

 エルメアーナは、テーブルから立ち上がるとアイカユラの方に歩いて行く。

 そんなエルメアーナを、アイカユラは困った人を見るような目で見た。

「もう、昨夜の夕飯の時といい。ちょっと集中しすぎじゃないの?」

 アイカユラは愚痴を言うが、エルメアーナは特に気にするような様子も無い。

「あ、ああ、アイカの料理がヒントになってくれたからな。それを無駄にする訳にはいかないから、しっかりまとめさせてもらってたんだ」

 アイカユラは、意外な答えを聞き少し恥ずかしそうにした。

 自分の料理がエルメアーナのヒントになったと聞いて、ちょっと嬉しく思ったようだ。

「私は、帝都にいた時は、フィルランカの料理に助けられていたが、王国に来てからはアイカの料理に助けられている。私は、いつも料理に助けられているなぁ」

 エルメアーナはニヤニヤしつつ、独り言とも話しかけているとも取れそうな言い方をしたが、アイカユラは嬉しそうにモジモジしつつ、頬に両手を当てて嬉しい気持ちを隠そうとしている。

「何よ。私が、エルメアーナのアイデアの助けになっていたなんて……。デヘェ、デヘヘ」

 アイカユラは、自分にも助けになれる事が有ったと思うと、とても嬉しそうにしたが、エルメアーナは気にする事なく店の奥へに入りリビングのドアを開こうとした時、アイカユラは動かずにいるのが視界に入る。

 リビングに入るが気になって顔だけ廊下に出して店の方を見ると、アイカユラは同じ場所に立ってさっきと同じようにモジモジしている。

「おい、アイカ? お前、変だぞ。それに、昼食を食べろと呼びにきたのは、お前じゃないか。食べたら、ジュネス達が来るまで、また、検討するんだから早く食べるぞ」

 エルメアーナは、それだけ伝えると、リビングの方に去ってしまった。

 だが、アイカユラはエルメアーナに指摘された事が気に食わなかったというようにムッとした表情をすると、エルメアーナを追いかけるようにリビングに向かった。

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