エルメアーナは、自分のスープ皿をジーッと見ると手に持ったスプーンを中に入れた。

　丸い皿に入れられたスープの上に乾燥した細かい葉っぱがスプーンを避けるように回っている薬味の動きを凝視していた。

（薬味がスプーンに当たって回転している。やっぱり、歪だと角があれば引っ掛かりそうだな。螺旋の溝なら大丈夫だろうけど、放射状の溝の方は垂直？　あ、円盤の接触面は正方形になっているから引っ掛かっても、徐々に外側に動いていれば引っ掛かっていてもズレて回り出すかもしれないのか。だけど螺旋は加工が難しいぞ）

　エルメアーナは、何かに気がついたようだ。

（螺旋と放射状の溝なら、転がりながら徐々に外側の方に回転軸が動くから転がっているうちに回り方も変わるって事じゃないのか……。あの2人は、ここまで気付いていて私に話をしていたというのか）

　エルメアーナは、お皿の中で回るスープを見てジューネスティーンの描いたポンチ絵を思い出していたのだ。

（そうなのか、ジュネスの言った螺旋を作れるなら、この方法でもよかったのかもしれない。これなら転がっていくボールは、放射状の溝を徐々に移動していくことになる。でも、1000分の1以上の精度を要求されるボールなら、この溝だって同じ精度にしないといけないだろ。螺旋の溝で、その精度を保って円盤を作れるのか？）

　エルメアーナは、真剣な表情をしてスープを覗き込んでいる。

（螺旋の溝を作るのも大変な作業になるのに精度を出すのは不可能に近いんじゃないのか？　まあ、放射状の溝なら……。いや、そっちも難しい作業になりそうだ。円盤に螺旋も放射状の溝を作るなんて……。円盤？　回転するなら、溝を作る時に円盤自体を回転させて溝を掘れば良いんだったら、こっちの方が精度は出せそうだ）

　エルメアーナが、ニヤリとしたのは自分の考えに納得できた時に出る表情だった。

（溝の精度が出せれば、ボールの精度も出す事が見込める。それに放射状の円盤だと溝とは垂直方向だから円に沿って転がる。これって回転しずらいんじゃないか？　少しでも突起が有れば回転方向から外れるように放射状の溝の外か内に回転が動いてしまって突起部分を抑えられないんじゃないのか？　そうなると綺麗に丸められそうなのは螺旋側の溝になるはず。進行方向に溝を切った方が均等に丸めやすいんじゃないのか）

　エルメアーナは、嬉しそうにしてスープを掬って口に付けた。

（そうだな、丸いトンネルの中をボールが転がって接触するなら円の中を転がるはずだ。そうなると完全ではないボールの直径が長い部分は溝の縁より中心側に向かうだろう。そうなれば螺旋と放射状の溝より、同心円上に溝を掘った中を転がした方が効率良く精度のあるボールに作りやすいはずだ。ジュネスの考えた放射状の溝だと、溝は、回転方向に対して垂直だから、ボールが立ち上がってくる時に、出っ張りがあれば当たって横に逃げてしまうが、私の考えている両方が同じ同心円ならトンネルになるから側面の出っ張りは引っ掛かり溝の深い部分にズレていきボールの回転軸と垂直になったら押さえつけられるように転がるはず。ある程度球体になっていたら引っ掛かる事はないな。それにこの方法の方が、メンテナンスが簡単になるはずだ）

　そして納得するような表情をすると背骨を伸ばしてからスープ皿を見て一口飲もうとすると視線を前に向けると、頬を膨らませて睨みつけるように見ているアイカユラが居た。

「え、何？」

　エルメアーナは、思わず声を出す。

　アイカユラが、また、不満そうにしていた事が何でなのかと思ったようだ。

「また！　エルメアーナったら、私の料理が美味しいって言ったはずなのにスープで遊んでたじゃなの」

　面白くなさそうに言うと、しまったと思ったようだ。

　今、スープが回っている様子を見て、ベアリングを丸めるための円盤のヒントを得たのだが、食事をしながら気がついた事がアイカユラは察して面白くなかったのだ。

　それに気がついたエルメアーナは焦っていた。

「あ、いや、これは、ジュネスの考えていた事が、何だったのかスープからヒントを得てしまったんだ」

　慌ててフォローするというより、本音を漏らしてしまうとアイカユラの表情が険しくなった。

　エルメアーナは、また、しまったという表情をする。

　怒られると思い慌てていた。

「いや、これは、スープが、とても美味しく、上手にできていたからなんだ。うん、そうだ。このスープの滑らかさと、絶妙な粘度が出ていたから気がついた事なんだ。これが、このトロミが出てなかったら、絶対に気がつかなかったと思う。うん、アイカの料理のお陰で、疑問に思っていたことも解決できた。美味しい料理を食べているのに、私の考えていた問題まで解決させてくれるなんて、アイカは、本当に、料理の天才だ。これは、きっと、アイカの料理は、大陸でも数本の指に入ることも考えられる。うん、料理の大会があったら、優勝するのは、アイカかフィルランカになるだろうな。うん、きっとそうに違いない」

　このままではアイカユラが怒り出してしまい、説教モードになってしまうと思うと美辞麗句を並べようと考えながら話すので、言葉が途切れ途切れになっていた。

（え！　何、私の料理って、大陸でも数本の指に入るの？　料理の大会があったら優勝？　え、えへ、えへへ。え！　でも、素直に喜んだら、エルメアーナの思う壺じゃないの）

　それによって、アイカユラの気持ちも和らいだのだが、アイカユラは、ただ、そのまま喜んだとしたら、負けたという気分にでもなったのか、表情の和らぎは抑えようとしている。

「わかったわ。そう言うことにしておくわ」

　少し恥ずかしそうに答えると、アイカユラも食事を続けるので、ホッとした様子で肩から力が抜けると、機嫌が悪くならないうちに自分の食事を終わらせようと急いでいた。

　エルメアーナとしては、アイカユラのご機嫌を損ねることは自分に跳ね返ってくることを理解しているので、食事を早く終わらせてベアリングの開発について考えようと思ったようだ。