#16 Memory
公園にいた。記憶の中で揺れるブランコ。発色の良いショウリョウバッタやその中身。壮大な山を作り上げて、バケツに組んだ水で川を作った砂場。塗装のハゲかけたカラフルな滑り台。公衆トイレと名付けられた灰色の箱やその裏に築かれた秘密基地。口に含むと渋い、固く小さな赤紫の果実。クラスでいじめられていた同級生と二人だけで遊んだりもした。新聞紙を丸めて作った杖があれば魔法を使うことができたから、お兄ちゃんと魔法の闘技をしたりもした。
どうしてもあの鉄柵を乗り越えたかった。力強くブランコを揺らし、ブランコから飛び降りて、何度も鉄柵の内側に着地した。顔を鉄柵にぶつけることもあった。全部覚えている。鉄柵を飛び越えて外の世界に着地した時、私は喜んだ。そう、喜んだ。
バッタを平気で引きちぎる友達がいた。僕も真似して引きちぎった。細長い肝が顔にくっついていた。バッタは絶命した。脚は動いていた。背の低い草が生い茂る丘の地面に虫網を滑らせながら走ると、いろんな虫が簡単に捕まえられることも学んだ。しかし、草の中から自分のこの目で草と同じ色のバッタを見つけて、手づかみで捕まえることが喜びだということも同時に知っていた。こっちの方が楽しい、と思っていた。
大きな山を作るには長い時間をかける必要があった。ブルーのプラスチックスコップで必死に山を大きくした。その山に溝を掘って水を流すと、掘り返した穴に水が溜まって、汚い池ができた。水は砂にどんどん吸われて、池は無くなった。泡だった水面が砂に吸着し、虚しく思った。楽しいことは終わってしまったから、僕はその山を破壊した。その頃には夕方だったから、満足して家に帰った。
友達の後に続いて、滑り台の階段を登った。滑り降りる友達の背中。綺麗に着地する友達、ちょっとこける僕。お尻にじんわりと伝わる熱。正座しているとうまく滑ってくれないし、危ない。もちろん、逆向きの登ろうとして滑ったりもしたし、勢いよく助走をつければ摩擦の力が僕に味方して滑り台の頂点に辿り着くこともできた。
あの灰色の箱には、横スライドの重厚なドアが付いていて、広い部屋に小さい便器が設置されていた。比較的綺麗だった。砂場の山に流す水を汲むときはこのトイレの水道を使った。トイレの裏には草が生い茂っていたけれど、それをかき分けて、場所を作った。僕たちだけの場所だった。他の誰のものでもなかった。僕たちだけの場所だった。
あの小さな果実は美味しくなかった。ほとんどは渋みだけど、ちょっと甘かった。実際に口へ運ぶことは少なかった。果実をたくさん集めて、石場に擦り付けて皮を剥がすと、黄土色の硬い中身が顔を出した。あの果実には価値があった。何個持っているのか、というのも大事だった。友達より多く果実を集めた。果実を取り続けていると、その果実を実らせている低木は、本当にただの木になった。
あの子は友達だったのだろうか。少し臭くて、顔色の悪い、細身の男の子。僕と遊んだ時、彼は笑っていた。学校で見ることができなかった笑顔だった。僕は何も気にせず公園を駆け回って、一緒にクルクルとその場で回ったりしていた。僕たちに遊具は必要なかった。平らな砂地があればいいだけだった。
いろんなサイズの紙を丸めて杖を作った。僕が持っている物の中で一番大きい紙は新聞紙だった。だから新聞紙を斜めに丸めて長い長い杖を作った。けれど、長い新聞紙の杖はすぐに折れてしまった。斜めに巻くと重なる部分の層の数が少なくなってしまうし、新聞紙は弱い紙だし、元々折り目がついていたから、その杖には強度がなかった。比較的厚い紙だったチラシは、強度があったが短い杖しかできなかった。僕はチラシで作った杖の方が好きだった。公園で魔法を使うときは、ただの木の枝でも特に問題はなかった。
夜のコーヒーを飲みながら昔のことを丁寧に思い出せば、あの時と同じように公園で遊ぶことができる。
あの頃の僕らは、全て知っていた。
僕らはあの頃憶をなぞるように日々生きている。
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