第36話 海だ!
さいわい、丘陵地帯を過ぎると、またちらほらと緑が見えてきた。緑のあるところには動物もいる。森というほど緑が深いわけではないから、見通しもよく、大きなモンスターに突然背後を取られるという心配もない。
日々の野宿と、食糧の確保で、少しずつ強くなってる気がする。たぶん。イチハは僕のこと「大きくなったわね」と言って、頭を撫でる。子どもみたいだからやめてほしい。
「海だ」
ドゥークがぴくぴくと鼻を動かす。「潮の香りですね」とミミが応じる。僕とイチハは首を傾げたが、木々の間を抜けるとすぐに歓声を上げた。
「海だー!」
どこまでも広い空、青い海。足元はじょじょに砂から石、岩場になり、海岸をぐるりと囲む入り江の先は岬になっていて白壁に丸い屋根をした建物が見える。
「天文台ね」
僕らはすぐには天文台に向かわなかった。
ミミ(と僕)が、海で遊びたいと言ったから。だって、海なんて初めて!
天文台に続く右手は岩場だが、左手を進むとなだらかな丘陵の先は海へ続く砂浜になっている。
僕とミミは海に向かって駆け出した。
白い砂浜に足跡がつく。細かい砂に足を取られるけど、それだって面白い!
ミミと波打ち際まで行く。波は引いては寄せて、ここなら濡れないだろうって思うのに、次の波で膝まで濡れてしまったりする。
「危ないから、あんまり深みまで行っちゃだめよ」
イチハが大声で言う。日射しを避けて、木陰に立っている。「ヒヤケドメがあればなー」なんてぶつくさ呟いてる。
代わりに、ドゥークが僕らの相手をしてくれた。僕らのことを持ち上げて、ぽおんと海の中へ放り込んだりする。わあ。鼻に水が入るとつんとするけど、ざぶんと沈んですぐに浮くのが面白い。ミミとふたりして何度もドゥークに投げてくれってせがんだ。
ドゥークは泳ぎも得意みたいで、背中に僕らを乗せて、沖の方まで泳いでくれた。けど、あまり遠くには行かず、すぐに戻ってくる。「もっと向こうまで行きたい」とお願いすると、「これ以上行くと大型海洋生物に出くわす危険がある」と注意された。
あまりにも僕らが楽しそうに遊ぶから、イチハも日焼けのことは諦めて、砂浜で一緒に砂の城を作ったりした。
とっても楽しくて、夢中で遊んだ。
ここのところ危ない戦闘もなく、食糧に余裕があったし、天文台を発見して今夜は屋根のある場所で眠れると、気が大きくなっていたのだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます