第3話 ダークエルフ女子からの告白

 どうしたものか、マキトはダークエルフ女子であるリュデアに膝枕してもらいながら、“治癒”スキルで治療受けている。


 「わ、悪いな…?まだ、ワタシの“治癒”のスキルレベルはそんな高くないんだ…。」


 この異世界の治療には二通りあるようで、回復魔法とスキル“治癒”だ。リュデアは後者を使っている為、たちまち治療が完了する回復魔法とは違う。例にもよって、スキルレベルに応じて、治療が完了するまでの時間や内容が変化するようだ。


 「いや…。リュデア、気にしないで?俺は、治療して貰ってる身なんだ…。何も文句言える立場じゃねぇし…。」


 「そ、それならいいんだが…。マキトが、ワタシと居ることが苦痛でなければな?」


 {ダークエルフの彼女かぁ…。絶対、良いよな!!あーでも、逃げてたあの子も捨てがたいよな。絶対、人間じゃないだろうし!!}


 膝枕してもらっているマキトの頭上には、これまたたわわに揺れるものが二つ。そのせいで、綺麗なリュデアの顔はマキトからは、全くといって伺い見ることが出来ない。それは、先程マキトから何気なく『付き合いたい』と言われてしまい、未だに照れているリュデアにとっては好都合だった。


 「それは、そうとさ…?爆発が起きた場所は、何がどうなったのか…何か分かるか?」


 「何者かは素性は分からずじまいだが、悪魔の女があの場所まで逃げてきたところ、上空から威力の高い火属性魔法で、女の背後を一撃って話らしい。周囲の被害も考えていないことを考えると、やったのは関わらない方がいい相手って分かるだろう?」


 「あ、あの子、あの火球で…死んじゃったってこと…か。」


 リュデアから淡々と語られた現実を前に、あの時助けておくべきだったと、マキトは激しく後悔し始めた。


 {俺が持ってる、唯一無二の究極スキル“異世界ジャンプ”って…ある意味、テレビゲームで言うところの“セーブ”機能と“ロード”機能だもんな…。そう考えると、あのラノベみたく、俺もやり直しが出来ると思うんだ…。でも、ジャンプ可能な場所なら好きな時に“コミット”や“ロールバック”出来るからなぁ…?ひょっとして、上位互換かなとも思ったんだが…。あ…でも、俺の場合…死んだらゲームオーバーか!!まぁ、逆に考えれば…死にそうでも、声が出せなくても、俺の頭の中で“異世界ジャンプ”って言って、ジャンプさえできれば…。}


 それと同時に、自分に備わった究極スキルについて、謎の声だけの女性から説明を受けたことを、マキトは思い出して考えを巡らせ始めた。

 それは、何度も主人公がタイムリープを繰り返して成長していく、異世界ファンタジーのラノベ(以降、“叡智の書”)をマキトは愛読しており、似たような境遇に自分が置かれたことに気づき、その知識を活用し始めた。


 「ああ…。そういうことになるな。あれだけの爆発だ、もし残っていても骨片くらいだろう…。」


 「そういえばさ…?あの爆発が起きた頃、リュデアは何処で何していた?こうやって、俺のこと助けてくれたんだから、きっと近くに居たんだろうけどさ?」


 既にマキトの頭の中には、目の前で命を奪われたあの悪魔の女性と、目の前にいるダークエルフ女子を、どうやって同時攻略すればよいか?という思考しかなかった。

 だから、マキトは“異世界ジャンプ”を今すぐにでも使い、もう悪魔の女性の居ないこの世界を“ロールバック”したかった。しかし、後先考えずジャンプしてしまえば、目の前にいるリュデアと出会うキッカケを失う可能性が、少なからずあることをマキトは知っていたからだった。

 それも、マキトにとっての“叡智の書“では何度も何度も表現されており、彼の脳へと刷り込まれてしまっている知識の一つだった。


 「わ、ワタシ…か?はじめは、買い物をしようと歩いてたんだが、マキトが走ってくのを見つけてな…?凄く、言いづらいんだが…話しかけたくなってしまってな?ワタシは、マキトの後をずっと追いかけていたんだ…。」


 {はああああっ?!俺の後、追いかけてた…だと?!言ってること、俺には意味不明なんだが…?}


 会ったばかりの異性からいきなりそんな事言われたら、誰だって普通はそう思うだろう。だが、そんな事を思ったマキトだって、叫び声に気付いて見かけただけのあの逃げ惑う悪魔の女性を、大通りの反対側の歩道から追いかけていた。その行動は、リュデアのそれと何ら変わらないともいえる。


 ただ、リュデアがマキトのことを追いかけていたのには、内容はともあれハッキリとした理由があった。

 実は、リュデアには自分に悪意なく好意を持つ者、持つ可能性のある者を、視覚的に判別できるスキル“好意判定”を、生まれながらに習得している。

 それ故、ただでさえ迫害を受けているダークエルフのリュデアは、“好意判定”を使って自分を傷つけない相手を選んで、人付き合いをして今まで生きてきた。

 そして、今日は…そろそろ恋人が欲しくなった為、スキルを使って恋人候補を街で探すべく、リュデアはぶらぶらと歩いていた。

 あとは言うまでもないが、突然大通りの真ん中に現れ、急に走り出したマキトをリュデアは見つけ、この流れだ。


 「それで…俺に、話しかけたくて追ってきたのは、リュデアは何か俺に用があったからなんだよな?」


 「う、うん…。い…いきなりで悪いんだけどさ…?マキト!!ワタシとお付き合いしてほしいんだ!!」


 「は?!」


 突然のリュデアからの告白に、マキトは驚いて口をポカンと開けたままになった。


 {はああああああああっ?!こんな美人なダークエルフ女子が!?こんな俺と付き合いたいだって?!即オッケーに決まってる!!でも、どうして今なんだよ…。もう、この世界は“ロールバック”するのにさ…。}


 心の中で何度もガッツポーズをマキトはしつつも、この後の展開は決まっているので、微妙な心境だった。またリュデアから告白されるとは、限らないとマキトは思っていたからだ。


 「お、俺からも宜しく頼む!!」


 「あ、あの…末永く、宜しくお願いするよ…。えっと、この治療が終わったら、ワタシの部屋に…ついて来てくれるか…な?」


 マキトを膝枕した状態のため、凄く赤らめたリュデアの表情は、胸が大きな壁となり見えていない。実は、リュデアの家訓では『添い遂げたい相手と付き合えたら、すぐに情を交わせ。』となっていた。そういう背景もあり、リュデアは“好意判定”で上限値を叩き出したマキトを、添い遂げたい相手と決めたようだ。


 {ま、マジで!?いきなり?!うーん…。これは、お楽しみの後で、“ロールバック”すればいい気もしてきたな…。でも、俺の勘違いだったらガッカリだしな…。}


 「へ、部屋…って?」


 「うん…。でも、実はワタシ…ね?まだ、処女…なんだ。ま、マキトは…?」


 これでマキトは自分だけの勘違いではない事を、リュデアの口ぶりで確信した。だが、そんなマキトもリュデアと同様にまだ童貞だった。


 {この世界での俺の童貞卒業は、リュデアなんだな。まぁ“ロールバック”すれば、俺もリュデアもノーカンになるし!!ただ、俺の記憶には刻まれるか…。だから、俺は“ロールバック”前のこと、全て忘れないようにしたい。現に悪魔の子は、無惨にも殺されてるんだから…。}


 「うん。俺も、童貞だ。まぁ、お互い…気楽にいこうぜ?」


 でも、リュデアを目の前にしてマキトの分身は、マキトが色々思いを馳せているのをよそに、まさに元気そのものだった。いつの間にか、マキトの履いているジーンズの一部が、はち切れんばかりに膨らんだ状態になっている。流石にリュデアもそれには気づいた様子で、更に顔を赤らめる事になった。

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