第24話 やってしまったのかもしれない。

 確実に脅威が増している。


「……っ」


 囲まれてから、攻撃が絶えることがない。

 いやより正確に言えば、適度に絶えてはいる……が、これはワザとだ。

 あえて隙間を生み出すことで、こちらの消耗をより強める方法だ。

 疲労を、精神の摩耗を、心を折ることを。

 あわよくば死んでもらおうという性根すら感じられる。

 狩りではない。

 殺しの術の類だ。

 明確に確実に殺すためだけに生み出された技術だ。

 狩りは、もっと誠実に、命に対して真っ直ぐあるべきだ。

 こんな弄ぶことを前提とした、これとは違う。


「大丈夫か……!」


 隣にいるアルラウネの彼女も目に見えて疲れている。

 無理もない。

 戦い慣れている俺でも厳しいものがある。

 このまま続けば間違いなく、死ぬしかない。

 だが打開する術も思いつかない。

 強くなれてはいた。

 それは少数であればの話だ。

 相手は手練れで、この場所での戦いを知っている。

 森の中であればこちらが有利ではあったが、ここでは俺たちは未だ初心者だ。

 諦めるつもりはない。

 しかし。

 どうしようもない現実もまた。

 眼前へと迫っている。


『…………ぉぉぉぉ』


 遠くから何かの叫び声が聞こえる。

 それはどうやら周りにいる連中にとっても予想外なにかのようで、明確に狼狽えていた。

 風が吹く。

 鼻に何かが香る。

 嗅いだことのない臭い。

 そして巨大な何かがこちらへと向かってきている。

 足は二つに、何か回るもの。

 おおよそ感じられるものがそんなところだった。

 なんだ、何か巨大な生物がこちらに来ているのか。

 しかもどうやら、それはこちらに向かっていて――――。


『――ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!』


 見えた時にそれが何かわかったが、わからなかった。

 人間たちの言う馬車のようで、馬ではなく、二足歩行の何か。

 鳥だ。

 巨大な二頭の鳥が、馬の代わりに引いている。

 それがこちらに向かっている。

 周りの奴らは、突然の来訪者に戸惑い、何か騒いでいる。

 ただただ呆然とするしかなかった。

 そして、その二頭の鳥を操る影が、こちらに手を伸ばしながら叫んだ。


『乗れえええええ!!』


 ハッキリと確かに、そう聞こえた。

 俺はアルラウネの彼女を持ち上げ、たった一度だけの、好機を逃すことなく。

 訳も分からず、飛び込んだ。



     〇



 やった。

 遂にやった。

 私はやった、やってしまった。

 助けてしまった、彼らを。

 救い影を、助けた。

 恩を返すために、全てを投げうった。

 相棒の走り鳥二頭と車を無断で持ち出した挙句、教会の印を施して、突っ込んだ。

 効果はテキメンだった。

 奴ら、戸惑い続けて、何もしてこなかった。

 ただただ私を見逃していった。

 ある程度逃げたら追いかけられたが、舐めちゃいけない。

 ここら辺の地形は全部、把握している。

 隠れることも容易い。


「……よかった、助けられた」


 余裕が出た私は、荷台に飛び込んできた二人のほうへと目をやった。

 思わず、言葉に詰まった。

 無事でなにより、とかそういう類の言葉は喉で詰まって、止まってしまった。

 だって、いま私の目の前にいるのは、亜人などではなく。


「――――魔物?」


 私は、やってしまったのかもしれない。

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