3人コント

 学校内にあったシャワー室をお借りし、服は被服室で洗濯してもらって、乾くまでは体操着で過ごすことになった。僕をシャワー室まで連れて行ってくれて、汚れた服を被服室まで渡しに行き、僕の体操着を取りに行ってくれた瀬尾先輩には感謝しかない。

 ……相変わらず敵意は向けられているが、やはり優しい人なのだな、と思う。


 シャワーから出て、体操着に着替えると、聖先輩に謝られた。ボクをたすけようとしてよごれちゃったから……ごめんね。ありがとう。という具合にだ。そんな、顔上げてください、と慌てたのは言うまでもない。結局僕は無様に泥の中に突っ込んだだけだし……。

 まあお礼の言葉だけ受け取っておいて、聖先輩と瀬尾先輩とは別れた。聖先輩とは、また一緒に霜柱踏もうね、という約束もして。……今度は泥に突っ込まないように気を付けなければ。


 その後は体操着のままご飯を食べ、授業も受け、そろそろ乾いたかな……と思ったタイミングで、僕は被服室まで向かった。


 と、その道中で、泉さんに会った。彼は僕を見るなり。


「お前今日体育ないだろ、どうした?」

「当たり前かのように人の時間割把握するのやめてもらっていいですか」


 なんだかストーカーされているみたいで怖い。

 しかしそんな僕の文句も、あはは~、と笑って流され、沈黙を貫かれたので、僕は諦めて話すことにする。


「へぇ、お前が、珍しいな」

「それは何に対しての珍しいですか……」

「んー、凡ミス? ていうか」

「凡ミス……」


 まあ確かに、任務ではそういうことにはならなかっただろうけど……。


「……異能力使わずに助けようと思ったら、そうなっちゃったんですよ」

「……え? 異能力、使わないようにしてるの?」

「……ええ、まあ」

「なんで?」

「なんで……」


 心底不思議そうに聞き返され、僕は思わずその質問を繰り返す。

 なんで、なんでか。


「……最近、異能力に頼りっぱなしだったので……異能力を使わなくても、生きていけるように、なりたい……?」

「……ふーん」


 泉さんは、そうやって一度相槌を打って。


「で、本当は?」


 さらっと流される。……やっぱり僕は、この人に敵う気がしない。


「……ほら、僕……異能力で人を殺したことがあるのが……広まってるじゃないですか。だから、他の人を怖がらせないように……っていうか……」

「別に隠すような理由じゃないじゃん」

「あまり大声で言えるようなことじゃないでしょう……」


 特に人を殺したことがあるの部分とか。

 まあな~、と泉さんは軽い調子で笑う。そう気楽な感じにされると、こちらとしても気が楽だけど。


「ま、考えてそうしてるなら、頑張れ~、とだけ言っておくよ」

「はは……頑張ります」


 周囲からの信頼を取り戻す。僕が一度でも壊そうとした幸せを見つめて、その中で僕も幸せになる。……それが、泉さんから与えられた、僕への罰だから。


「でも」

「……?」

「お前はあくまで、異能力の使い方を間違えただけ。今はちゃんと、正しい使い方を知っている。……俺が春松はるまつに頼んだのは、強さもそうだけど……一番大事なのは、それだから。それは分かるよな」

「……はい」

「異能力を、使。ちゃんと正しく使えるように、忘れるなよ。それだけ、忠告しておく」

「……」


 その言葉に、思わず黙ってしまう。使わないといけない時、ちゃんと正しく、使えるように……。


「守りたいものがあるんだろ、お前にも」

「……はい」


 返事をする。泉さんは、嬉しそうに笑った。


「はは。やっぱり、素直になったな、お前」

「……からかわないでもらえますか」

「後輩を可愛がってるだけだろ~?」


 そのまま髪を撫でられたので、僕はその手から逃れようとするが……その背後に見知った姿を捉え、動きを止めた。


「……お前は何ダル絡みしてんだよ。恥ずかしいからやめろって」

「あ、素直じゃない代表だ」

「なんの代表だよ……」


 そこにいたのは、泉さんの相棒である忍野おしの密香ひそかさん。呆れたように僕の頭を撫でる泉さんを見つめている。

 ……そして、その背後に隠れているのが……。


「では私も、可愛い可愛い後輩を可愛がらせてもらうとしよう!!」

「えっ。……わぁっ!?」


 泉さんの1代前……つまり、今の代から2代前の生徒会長だった、にのまえあいさん。忍野さんよりは背が低いから、上手く隠れていたようだ。……僕は角度的に、その特徴的なポニーテールが見えたから、気づいたけど。

 そして愛さんに頭を全力で撫でられ、泉さんは髪をぐっちゃぐちゃにされていた。助けて~、と泉さんは喚いているが、忍野さんは知らん顔だ。


「……で、何しに来たんですか?」

「……一さんが、泉に用があるっつーから。付いて来た」

「はあ」

「……なんだよその顔」

「一さん」

「はっ倒すぞ」


 だって、仕方ないではないか。まさか人のことを敬称を付けて呼ぶ忍野さんを見る日が来るとは。


 まあそれはともかく。来た理由は分かった。忍野さんは愛さんの研究の助手をしている……という話だし、彼が愛さんと一緒にいるということは、用というのはそれ関連なのだろうな、と思った。


「え!? 俺に用!? 何何なんですか!? 先輩それ以上撫でてくるなら聞きませんからね!?」

「む!? それは困る!!」


 忍野さんの発言を聞き逃さなかった泉さんが、そう叫ぶ。すると愛さんはすぐに泉さんから離れた。冤罪対策のように両腕を上げて、だ。

 泉さんは顔を赤くし、手櫛で髪を整えている。そして僕に、ごめん、と超小声で謝って来たので、なんだか面白かった。


「謝るくらいならやるなよな」

「俺がやるのはいいの!! ……でもされるのは嫌!!」

「滅茶苦茶な言い分だな……」

「……密香、心配せずとも、お前も後で私が撫でてやろう!!」

「なんでだよ誰もそんな話してないだろ」


 すっかり忍野さんがツッコミ役に回っている。泉さんと愛さん2人を相手にし、少し疲れているような様子だった。

 そんな3人を、僕は思わず苦笑い交じりに見つめる。仲が良さそうで何よりだ。

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