第13話『M』

「ローレルさんを亡くしたことは今でもつらい?」

 オリーブが聞くので、タイラーは静かに笑った。

「そうだな……もっと心に寄り添ってやれるような俺だったら、とは思うが。それはもう後悔しても仕方ないからな。——ローレルは俺に命をぶつけても道を変えようとしてくれた恩人だ。安らかな眠りについてくれることを願うよ」

「きっとローレルさんも、今のタイラーに満足してると思うよ」

「ありがとう」

「でも、タイラー。私にローレルさんと同じものを求めないでね。私、男の人の世話が楽しいなんて境地に立ったことないし」

 真面目に言うオリーブに、プーッと吹き出すタイラー。

「オリーブらしいな……それが女らしくしないって意味なら、俺は大歓迎だ。大抵のことは自分でできるからな。もう世話を焼いてほしいとは思わないよ」

「よかった、それならいいんだけど……」

「でも、オリーブもある意味世話好きだけどな。よくナタルのフォローしてるじゃないか」

「だってナタルって情けない自分を肯定してるんだもん。誰だってお尻を引っ叩きたくなるわよ。しかもそうされるのが嬉しいんだから呆れちゃうわ」

「それでも世話を焼いてやるんだな」

「愚図っ子と同じよ。手間がかかるほどかわいいってことかもね」

「なるほど、子ども扱いか。ちょっと妬いてたが、妬くまでもないことだったんだな」

「タイラー、ナタルに妬いてたの?」

「かと言って、あいつと同じ作戦はどうひっくり返っても俺には使えないからな」

「あはは、確かに。タイラーがナタルみたいだったら、イメージがガタ落ちだからやめておいた方がいいわね」

「……オリーブ」

「なに?」

「エリックのことを俺に話してくれないか? 好きな男のことを自分を好きな男に話すのは抵抗あるだろうが、俺は全然構わない。むしろ、オリーブがエリックのどんなところが好きだったのか知りたい。俺はエリックにこそ妬いてるが、知れば攻略法も見えてくる。必ず俺を好きになってもらえように努力するから。頼むよ」

「……タイラーにそこまで言わせるなんて、私も隅に置けないわねー!」

「オリーブは優しくて情に厚くて気性のさっぱりしたいい女だ。知らなかったのか?」

「うん、知らなかった」

「それなら俺を振り回すぐらいの気持ちで振舞ってくれていい。俺の気持ちは変わらないから」

「——タイラーって、M?」

「オリーブに関してはな」

「やだぁ! タイラーがMなんて、調子狂っちゃう」

「ははは」

 捨て身の説得でオリーブから信頼を勝ち得たタイラーだった。





















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