第11話『ぼくたちと遊ぼう』
うだるような暑い夏がやってきた。
連日30℃を越すと、冷房がない童話の里では、修法者が施す修法が頼りだ。即ち、涼風を吹かせたり、暑気払いに雨を降らせたりするのである。
しかし、連日それに頼っていたのでは、因果界と真央界を往来する彼らの体温調節機能が狂ってしまう。
というわけで、週の真ん中水曜日は「暑さに負けるな! 熱血ファイヤー!!」のスローガンの下にノー修法デーなのだった。
ガンガン水を飲んでバンバン汗をかきながら、生産修法の仕事を終えたNWSリーダーたち。夕方1時間残業して他の里からのポールへの問い合わせに応じる。
すると、オリーブが受けた内容が、何となく珍妙な具合になっていた。
受け答えがどちらも嫌なことを押し付け合うようなのだ。
「ですから、そういう事情がおありでしたら、ますます笑話の里でケアを……いえ、お引き受けできないのではなく、おもちゃの気持ちを考えますと……はぁ、そうですね。そちらでは面倒見切れないと。はい、はい、それでは転送してください――」
渋面を作ったまま、オリーブが円卓に突っ伏した。
「ごめーん、断り切れなかった。可哀想で可哀想で」
「どったの?」
ポールが聞くと、オリーブが跳ね起きた。
「エスクリヌスの
するとルイスが反応した。
「あ、それって水子供養の一種ですよね。現世で生きられなかった赤ちゃんや子どもを慰めるために、お菓子やおもちゃなんかを祀って、供養のために川に流して……エスクリヌスの場合は湖ですが。冥土に届けるって風習ですよね」
「ルイス、詳しいじゃないか」
マルクに言われて頭を掻くルイス。
「いえ、実はちょうど『ぼくたちと遊ぼう』という怪奇小説を読んでまして。その中に出てくるんですよ、精霊供養の話が」
「ナイス、シンクロニシティ!」
キーツが混ぜ返すと、オリーブが話を元に戻した。
「とにかく、そういう悲しい事情で湖に沈められたおもちゃを――成仏させてくれないか、って言うの」
「は? だったらなんのことはない、魂浄めで成仏させれば……」
アロンが事もなげに言う。
「この世への未練が強すぎるんだって。先方が言うには、汚染された湖底に長いこと沈んでたから、情念が乗り移ったんじゃないか、って」
「ヒイッ、恐ろしや」
ポールが腕を抱き合わせた。
「それで、おもちゃを転送するって言ったのね?」
「うん、1時間以内に転送するそうよ」
トゥーラに聞かれてオリーブが答える。
「真夏にホラー、役者が揃ってるなぁ」
ナタルはボソッと言ったが、ランスは改めて言った。
「今回はちょっと内容が違う依頼のようです。複雑な事情もありますし、丁寧に取り組みましょう」
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