ウパニシャッドを識る者へ

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話 化石星《ネピア》を求めて

 サザンクロスの西方に、ある文明の言語で星の化石を意味するネピアと呼ばれた星があるとされる。その星は悠久の時を称えて、劫初より前から光り輝くと伝承されるが、その光は人間の目には見えないという。唯一、ある血族の者だけがその光を見えたという。この逸話が今世界にあるあらゆる宗教に繫がるという話はよく都市伝説で見られるが、それでも宇宙に関わる者として、少なくとも私はその伝承を心からそうであってほしいと望んでいた。

「私にもいつかネピア、見れるかな」

 私はサザンクロスに憧れ、日本列島に四つある電波望遠鏡のうち小笠原観測局で働くことにした。サザンクロスは南天付近にあるため北半球にある日本で見られる場所は限られる。その中にあり、しかも日本一星空がきれいだとされるのが小笠原諸島だ。私の楽園は天にはなく、海原に浮かんでいた。

 小笠原観測局では仕事として滅多にサザンクロスを観望することはなかったが、サザンクロスが望める時期は職権を行使しプライベートに観測することにしていた。時には観望で夜を明かすこともあった。


「朝木さん。また徹夜っすか」

「そうそう」

「程々にしたほうがいいっすよ」

 私の疲労感に満ちているだろう表情を見て、後輩の砂川が心配をかけてきた。

「サザンクロス好きですよね。何か理由が?」

「いや、なんとなく」

「そうっすか。まぁでも、俺は月を除けばシリウスが一番好きっすね」

「へぇー。それはまたどうして?」

「なんか月とシリウス、似てる気がするなって。な訳ないのにね」

 私は砂川の戯言を聴きながら、勤務前に飲むためのモーニングコーヒーをコーヒーメーカーで作る。砂川の言葉に頷いたりはしなかった。

 私は甘党なので自分のデスクにはスティックシュガーとクリーミングパウダーが常備されている。淹れたてのコーヒーを片手にデスクに向かうとそれらの甘味料を加える。砂川はそれを見て軽く引いていた気がするが気にはせず、そのまま話す。

「宇宙を求めて宇宙と生きる。私達はそういう生き物なのかもね」

 私はそう言うと、ちょっと恥ずかしくなり、砂川に背を向けてコーヒーを飲んだ。甘いのか苦いのか、よくわからない味だった。

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