第9話 Cランク昇格試験 VS DQNギルマス
夕方。
街に戻ってきた俺は冒険者ギルドで、ゴブリンコマンダーの死体を提出した。
それも、部下のモンスターごと。
ギルド裏手の空き地は200体のモンスターの死体で埋め尽くされ、受付嬢さんや他の職員たちは驚愕していた。
「ク、クジョウさん、ゴブリンコマンダーの軍団ごと討伐しちゃったんですけ?」
「え? そうだけど?」
「討伐対象はゴブリンコマンダーだけです! 配下のモンスターまで討伐しなくて良かったんですよ!」
「そりゃそうだけど、ついでだし?」
俺の返答に、受付嬢さんは呆れて肩を落としていた。
「クジョウさん、本当はどこかの国でAランク冒険者とかやっていたんじゃないですか? 問題を起こして除名処分になったから他の国で身分を偽って、とか」
「ないない。俺は本当に素人ですよ。それよりも、これで俺はCランク冒険者に昇格できるんですか?」
「あ、いえ――」
「お前には試験を受けてもらうぜ」
受付嬢さんの言葉を遮って、大柄な男が割り込んできた。
「ギルドマスターさん」
――へぇ、このおっさんがギルマスか。
「試験て、Dランクまではなかったですよね?」
あごをなでながらが、ギルマスは見下すような態度で俺を睨みつけてきた。
「まったく、そんなことも知らないのか。いいか、よく考えてみろ。貴様のようにアイテムボックススキルを持っていないほとんどの冒険者はモンスターの死体をまるごと運ぶことなんてできないだろ?」
「言われてみれば……」
「だから他の連中はみんな、討伐した証明にモンスターの素材を持ってくる。だが極論、素材は金持ちがどこからか買ってきて討伐したと嘘をつくこともできる。お前のようにな」
「……どういう意味ですか?」
DQNの匂いを警戒しながら、俺は尋ねた。
「そのままの意味だ。素人が加入一日たらずでCランク冒険者だと? この試験はなぁ、貴様のようなイカサマ野郎を炙りだす捜査でもあるんだ! 実際、Dランクまでは金で買えるなんて言われているがその通りだ!」
――なんだこのおっさん。新顔が活躍するのが気に食わないのか? いや、それはおかしい。有望な新人が入ったなら、ギルドの評判も上がるはずだ。俺にイチャモンをつける理由は無い。
「だが、ここから先は真の戦士だけが踏み入れる本物の世界だ! 貴様の化けの皮を剥がしてやろう、皆の前でな! ちょうどいい、リュールも呼ぼう!」
――あ、このおっさんリュールと俺が仲良くしているのが気に食わないんだな。
俺は全てを察した。
◆
ギルド内にリュールがいたこともあり、俺の昇格試験はすぐに始まった。
モンスターの死体で溢れかえっていたギルド裏手の空き地に杭が打たれ縄が張られて、即席のバトルフィールドが姿を現す。
縄の外側は、ギルド内の飲食スペースで酒を飲んでいた冒険者たちが集結して、野次や煽るような言葉を飛ばしている。
夕暮れに赤く染まる客の中には、リュールの姿もあった。
性格の良い美少女に見られている。
ただそれだけで、俺のやる気は数倍に跳ね上がる。
女子からすればバカっぽいかもしれないけど、男子なんてそんなもんだ。
さらにリュールはおっぱいが大きいのでその効果は10倍に跳ね上がる。
女子からすれば気持ち悪いかもしれないけど、男子なんてそんなもんだ。
異論は認めない。
「よく逃げなかったな、ソウタ・クジョウ」
俺がリングインすると、10メートル向こう側でギルマスが両腕を組み、偉そうに胸を張りながらニヤリと笑った。顔面に蹴りを入れたくてしょうがない。
「いや、別に逃げる理由とかないんで」
「自分の化けの皮が剥がれるのがわからんのか? それともどこからか仲間がオレを狙撃しようと狙っているのか?」
わざとらしく、手で目の上にひさしを作って、ギルマスは周囲を見渡した。
なんだろう、いい年したおっさんがDQNムーブするのほんとイラつく。
いや、相手が高校生でもムカつくけど。
ネットやテレビの体験談で、世の中には年齢に関係なく、頭が小学生レベルで止まっているDQNがいるのは知っているけど、それは異世界でも変わらないらしい。
俺はイライラと呆れがないまぜになった感情で、このおっさんギルマスをどうざまぁしてやろうかと考え始めた。
ここが場所が違うだけでDQN王とクズ神官のいる世界と同じかわからないけど、前哨戦代わりのいけにえにしてやると、俺はちょっと心の悪魔が顔をのぞかせた。
――お気に入りのリュールの前で恥をかかせてやる。
興味深そうに俺のことを見つめるリュールと視線が合うと、彼女はお手並み拝見とばかりにニヤリと笑ってくれた。
ギルマスがニヤリと笑うと顔面にケリを入れたくなるのに、リュールがニヤリとすると胸が高鳴る。
ただしイケメンに限るという言葉があるように、美少女は何をしても価値がある。
会場の盛り上がりがピークに達すると、レフェリー役の受付嬢さんが手を挙げた。
「では、これよりソウタ・クジョウさんのCランク昇格試験を執り行います! それでは二人とも、正々堂々戦ってください! レディ・ファイト!」
「くたばれクソガキぃ!」
「ほい」
俺とギルマスの間の地面を収納した。
ギルマスは深さ100メートルの穴の中に消えた。
穴の中に清掃クエストの時に収納した汚物セットを取り出した。
地面を戻した。
ただし、ギルマスの厚みの分、地面がちょっと盛り上がっている。
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