露天風呂にて

 キャンプ場についた三人。


 テントを設置したり、キャンプ道具の準備を終えたりするころには、もう夕方になってしまった。


「いい感じの時間ッスね〜」

「この近くに銭湯があります。お二人とも、お風呂に入って、その後夕食はどうでしょう?」

「いいッスね! 銭湯とか久しぶりッス〜!」


 喜ぶエリカの顔を見て、ロジーはうれしくなった。


「それでは、わたしはこちらで準備してますので、お二人とも先にどうぞ」

「えっ、ロジねぇは……?」

「……えと。わたしは、その……怪我をしているので、いっしょにはやめておきます」


 本当はアンドロイドだとバレてしまうからなのだが、それは言えない。エリカは少し残念そうに眉を下げるが、納得してくれたのか、羽風はかぜといっしょに銭湯へ向かいはじめた。

 ロジーは二人に手を振って、薪を用意しに歩き出した。




 ◇




「いいお湯だぁ〜」


 露天風呂に浸かりながら、エリカは気持ちよさそうに声を出した。


「そうだな〜。それに今は誰もいない。貸切状態だな」

「そッスね。ラッキーッス」


 羽風はさらに肩まで湯に浸かる。基本的にシャワーで済ませることの多い羽風にとって、湯に浸かることが久しぶりで、なおさら気分がよかった。


「……先輩」

「……なんだ」

「この間の、食堂でのことなんスけど」

「…………あのときは反省している」


 途端に、辺りは静まり返る。


「……先輩は、ロジ姉のことどう思ってるンスか? そもそも、先輩が誰かと暮らすことすら、ウチにとっては驚きなんスよ。……だって先輩、もう誰かと暮らすなんてことをするタイプなように思えなくて。昔から、先輩はやっぱり、どこかで一人だったから。誰かと関わろうともしなかったッスもん」

「…………」


 羽風は俯き姿勢になり、露天風呂のに身体を預けた。遠くの景色を見つめながら、羽風は話す。


「……もう、一人がいいだなんて思わないよ。ロジーのおかげで、やっと前を向けるように変われたんだ。だが、そうは思っていても、わたしがあの失言をしてしまったのは、ロジーはわたしの『物』だと、無意識に、まだそう認識してしまっていたからなのだと思う。ロジーのことを好きと言っておきながら、あんなこと……」


 ――わたしはまだ未熟だった。だが、二度と絶対にあんなことは言わない。


 羽風は、自分の中でそう強く誓った。


 エリカを見れば、なんだかうれしそうにニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「……なんだ?」


 エリカは「べっつに〜」と答える。


「先輩の片想い相手ってロジ姉だったんだと思って!」


 羽風は途端に顔が真っ赤になった。同時に、自分の発言を思い出す。


「かぁ〜ッ! 先輩、好きな人といっしょに暮らせてるなんて幸せ者ッスね〜! ち・な・み・に、どういうところを好きになったんスか!? やっぱり長年幼なじみやってると、芽生える感情もあるんスかね!? いつくらいから恋と確信するようになったンスか!? あ! あと――」


 エリカの怒涛の質問ラッシュに、羽風は茹でダコ状態だ。目もグルグル回してしまい――。


「わ! 先輩!? ウソ、本当に茹で上がっちゃったッス!」


 慣れない質問攻めと長風呂のせいなのか、羽風はのぼせてしまい、力が抜けてしまったようだ。


 エリカは羽風の身体を支え、いっしょに風呂に上がる。


「……悪いな、エリカ。恋愛事は全然慣れてないんだ。……あと、長風呂も」

「二人揃って恋愛初心者なんスから。まあ、見てるほうは面白いッスけど」

「……二人って……?」

「こっちの話ッス! いや〜よかったよかった! どっちも応援できるなんて!」


 羽風はエリカが何を話しているのか皆目見当もつなかった――しかし、今はとにかく早く回復したかった羽風は、ただエリカに連れられるまま脱衣所へと、ふらつく足で向かうのだった。


「しっかし、ロジ姉のことをだなんて……。先輩は、独占欲強めなンスかね?」


 エリカは羽風を運びながら、そんなことを呟いた。

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