2022.9.23(fri)体育座りで写真を見上げて



「あ、柊先輩」

菜都奈はひょっこりと顔を出している柊を見つけて手を振った。柊は菜都奈と尽を見つけると嬉しそうな顔をする。少し離れたパネルで作業をしていた澤村と谷山が、黄色い声を押し殺しながら覗いていた。


朝の十時。ついさっき、放送で文化祭開始の合図が出たところだった。菜都奈は完成した『ダウ展』のパネルの写真を撮っている。協賛の尽も一緒だ。

「クラスから近くてさ、覗きにきたんだ。邪魔じゃない?」

「全然、大丈夫です」

菜都奈の隣のスペースで、色縛り個人展の微調整をしていた蒼佳がいつの間にかいない。きっと先輩たちの方に行ったのだろう。尽は地面にあぐらを描いて「ダウはかわいいなあ」と緩み切った顔をしていた。


「ところで写真部、どうですか?」

菜都奈が聞いたのは、以前勧誘した時の話だ。既に断られたようなものだったが、これだけ自由な部活を見れば考えも改まるかもしれない。

「俺はいいよ。見てるだけで十分、楽しい」

「え、菜都奈……すごいナチュラルに勧誘するね」

「尽もどう? 楽しいよ」

「それは見てれば分かるけど……僕は放課後忙しいから」


「え? バイトも塾もないよね?」

「ダウの散歩」

ああ、と菜都奈は思い至る。尽は早朝と夕方の一日二回、雨でも風でもダウを散歩に連れて行くのだった。

「じゃ無理かあ。人数増えたら楽しいと思ったんだけどな」

「写真部ってもっと大所帯かと思ってた。今って何人いるの?」


尽は辺りを見回して尋ねる。確かに写真部は名簿で見ればたくさんいるが、

「ちゃんと活動してるのは五人だね。だから人数増えたら嬉しいんだけどな〜」

そう言いながら、菜都奈は柊をチラチラと見やる。柊は意図を察して苦笑いだ。

「俺はごめんね。ここで呼び子でもしようか?」

「! それは……いいですね…………」


柊が集客したら人気アトラクション並みの行列になるだろう。それだけの大人数に写真を見てもらえる機会は滅多にない。菜都奈は澤村と谷山に許可を取ろうと裏のパネルに行く。

すると、全て聞こえていた澤村、谷山、蒼佳までもが身振り手振りでブンブンと、肯定だか否定だかよく分からない動きをした。


「な、何ですか」

たじろいだ菜都奈に澤村が「しぃー!」と人差し指で注意する。それから小声で、

「ひ、ひ、ひ、ひ、」

「え?」

「ひ、柊くんとどういう関係……?」

「友達の友達? です」

「あっ、あの水上くんの?」

「そうです、中学の時の部活仲間で」


「そうなんだ……え? 呼び子してくれるの?」

「本人はそう言ってくれてますけど、いいですか?」

谷山が小声で「共通テーマで隠し撮りした柊くんの写真が……」と呻いている。澤村も慌ててはいるが、ここで柊の善意を断る理由もないと思ったのか「ぜひ」と頷いた。

「わ、私からも挨拶しないとね……部長として……」

「私も! 副部長として…………」


何はともあれ、嬉しそうに頬を上気させた先輩たちを見ているだけで、菜都奈まで笑顔になる。蒼佳は相変わらず固まっているが、無理に引き合わせることもないだろう。

柊が澤村と谷山と話している横で、尽はダウの写真の配置を細かく吟味していた。菜都奈はその隣で体育座りをして、昨日完璧に配置した写真を見上げた。ダウの笑顔は誰よりも愛らしく、輝いていて、眺めているだけで幸せな気持ちになった。

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