2022.9.15(thu)ダイヤモンドの指輪



化学教師の竹内は開口一番に「僕のどこが変わったでしょう?」と満面の笑みを浮かべた。クラスメイトはもちろん分からない。菜都奈も分からない。ざわざわとした教室の中で、竹内はすすす、と左手を挙げる。

「! 指輪してんじゃん」

教卓の目の前の席の時岡が指を差す。


「そうです! 僕、結婚しました」

いいでしょう、と指輪をキラキラと光に照らしてみせる。

「ダイヤモンドですよ〜輝いてるでしょう」

「誰と結婚したん?」

時岡が声を被せて質問する。半分からかっている聞き方だが、この話題を待ってましたとばかりに竹内は黒板に絵を描く。


「みんなの知らない人ですよ。僕の大学時代の知人で、目が大きくて鼻がシュッとしてて、髪は、茶色です」

そう言って自前のチョークケースから茶色を取り出して髪を描く。出来上がった絵は全く上手くなかったが、竹内が惚れ切っているのは理解できた。


「ダイヤモンドは炭素原子。みんなも実は持ってるんですよ。何か分かりますか? ……はい、じゃあ飯塚君」

「! え……と、シャーペンの芯?」

「正解です! ということで飯塚君の早弁は見逃しましょう、今日の僕は機嫌がいいので」

飯塚はなんで気付かれたんだ、という顔をしているが、頬が膨らんでいるので丸わかりである。


菜都奈が机の上を覗き見ると、今日はこぶし大のおにぎりを持っていた。具は唐揚げっぽい……がっつり食べている。

「ダイヤモンドとシャーペンの芯は同じ炭素からできています。でも全然違う物ですよね。こういう同一の元素からできているのにも関わらず、性質が全く違う物を同素体と言うんです。これはテストに出しますよ」


菜都奈はシャーペンをカチカチと長く出して眺めてみるが、ダイヤモンドは似ても似つかない。芯を引っ込めてノートにダイヤモンド、シャーペンの芯、炭素、同素体と書き込むと、少し長過ぎたのか芯は簡単に折れてしまった。

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