2022.9.12(mon)秋口の通学路



七時四十九分。

菜都奈は朝の情報番組を見ながら、テレビ画面の左上の時計を見ていた。五十分に切り替わったのを確認すると家を出る。ちょうど隣家からも音がした。

「尽、おはよ」

菜都奈が声をかけると、ダウに手を振っていた尽が振り返る。


「おはよう」

菜都奈たちの通学路は住宅街を抜けて、途中で大きな公園を突っ切る。朝のランニングをしている女性やベンチで日光浴をする老人、犬の散歩をする男性。自転車で菜都奈たちを追い抜いていく同じ学校の生徒もいる。

「もう秋だねぇ」

尽が木々を見上げる。


青に近い緑だった木の葉は、いつの間にか黄色く色付いていた。ヒラヒラと落ちてくる葉もある。その奥の空にはうっすら広がる秋雲。

「うちで土曜日にお月見したよ。月見た?」

「うん、ダウと散歩に行った。ちょうどこの公園から……向こうのビルで少し月が隠れてたから、後ろ歩きして月を全部見ようとしたらさ、すれ違ったサラリーマンがすごいこっち見てて可笑しくなっちゃった」


「あはは。そのサラリーマンの人、月に気づいてなかったのかな」

「月に背中向けてたしね。声かければよかったかな」

尽は冗談混じりに言って小石を蹴飛ばす。

「でも月には気づいてただろうな。あの人コンビニの袋持ってたもん。駅前のコンビニ、僕も土曜日に行ったけど、すごい月見団子推してたし」


「単純に後ろ歩きしてる人がいてびっくりしたんじゃない? 犬の散歩中なのに」

「ダウはよく分かってなかったなあ〜。月だよって指差しても僕の指見てて月見てくれなくさ」

「ダウにお月見はまだ難しいよ。もっと老犬くらいになったら風流だなあってしみじみしそう」

「まだ先だなー」


公園を抜けるといよいよ学生が増えてくる。電車通学の人たちの通学路と合流するのだ。

あまり車の通らない車道に広がる生徒は、毎朝クラクションを鳴らされている。彼らは今日も懲りないようでクラクションが鳴ってからのろのろと歩道に移動する。今日も担任から通学時の注意をくどくどと言われそうだ。


菜都奈は「危ないなあ」とやんちゃな人たちを目で追ってはハラハラする。彼らもきっと老人くらいになってからやっと、車道を歩かなくなるのだろうか。

菜都奈と尽は周りの人達の他愛もないお喋りを聞きながら歩く。

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